本、漫画、その他

宮廷医女の推理譚(ジューン・ハー/創元推理文庫)

18世紀中盤の李氏朝鮮、第21代英祖の治世を舞台にした歴史ミステリ。 高官と妓生の間に生まれたベクヒョンは、生まれながらに賤民と定められた人生を切り拓くため、そして自分を顧みない父に認められるため、医女として研鑽を積み超難関の試験を突破して…

現代鳥獣戯画展(郷さくら美術館)に行って来た!

以前から気になっていた「現代鳥獣戯画展」を観に、中目黒の郷さくら美術館に行ってきました。 現代日本画専門の美術館で、展覧会のほか、画材の展示スペースや初心者向けキットみたいのもあったりする。 今回の「現代鳥獣戯画展」は、現代的な視点で描いた…

イラクサ姫と骨の犬(T.キングフィッシャー/ハヤカワ文庫)

強大な隣国の王子に嫁がされた姉を、その冷酷な手から救うべく立ち上がった主人公は小国の第三王女。ただし、30歳。 入江王国は良港を持ち戦略的には重要だが南北を大国に挟まれた弱小国。長姉ダミアは政略結婚でマーラが幼い頃に北方王国の王子ヴォ―リング…

古池に飛びこんだのはなにガエル?(稲垣栄洋/辰巳出版)

芭蕉の俳句から万葉集の長歌まで、日本の古典文学(韻文)で描かれた生き物たちの姿を生物学の知見に基づいて解き明かす科学&文学エッセイ。図書館でたまたま目について借りて来た本ですがすっごく面白かった!! 「どうしてだろう?」と思いながらわからな…

『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(吉田裕/中公新書)

日中戦争からアジア・太平洋戦争まで、日本が戦った戦争を具体の事例をあげつつ、日本軍兵士が直面した現実の過酷さという観点から描いている。餓死や海没死の多さ、特攻の戦果の乏しさ、自殺と「処置」。徴兵率の増大に伴う兵士の質の低下、心身の疲弊、物…

僕には鳥の言葉がわかる(鈴木俊貴/小学館)

シジュウカラの言語能力を証明した筆者によるエッセイ。やっぱり動物行動学って面白いな~TV番組や何かの記事でシジュウカラにも言語がある!というのは見たことあったけど、本書ではそこに至るまでの観察に基づく考察や証明のための実験を中心に、様々なエ…

『五大浮世絵師展 歌麿 写楽 北斎 広重 国芳』(上野の森美術館)

今週末には閉幕になるせいか、平日なのにすごい混雑だった。でもそのぶん見応えもありました! 歌麿:吉原に題材をとった作品や、金太郎が山姥の乳房にかじりついている「山姥と金太郎」、そして「「教訓親の目鑑 俗ニ云 ばくれん」は どうしても #大河べら…

鳥類学は、あなたのお役に立てますか?(川上和人/新潮社)

鳥類学者・川上和人の抱腹絶倒の鳥類学エッセイ。鳥類の生態・保全の研究者である著者の主なフィールドは小笠原諸島で、フィールドワークの苦労話(無人島に外来生物を持ち込まないために最後は荷物背負って泳いで上陸するとか…)とそこで発見した意外な事実…

梅雨入りの北浦和公園

ああ今日から梅雨入りだろうな~という、いかにもな感じのしとしと雨の中、近くまで来る用事があったので北浦和公園に寄ってみました。 マントに高下駄の旧制浦和高校生像 ここにはかつて旧制浦和高校があり、このモニュメントは50周年を記念して昭和47年(1…

"Return of the Obra Dinn"「オブラ・ディン号の帰還」感想(後半ネタバレあり)

19世紀初頭、ロンドンを出港して喜望峰に向かうも航海の途上で消息を絶った輸送船オブラディン号が5年後、ロンドンの港に帰還する。しかしそこに生存者の姿はなかった――保険調査員である主人公のもとに、何がおこったのか明らかにして欲しいという依頼と共…

都市伝説解体センター(ミステリアドベンチャーゲーム/墓場文庫)※ネタバレ有り

他のゲームを買おうと思って久しぶりにSteamに入ったら目についたので手を出してみたらなかなか面白かった。私の苦手なホラーテイストだけど怪異は一応合理的に「解体」されてしまうし、絵柄的にもアレなのであまり怖くない。 ストーリーは、 女子大生・福来…

"京には見えぬ鳥なれば" ~古典文学の中のユリカモメたち~

古典文学の中で「都鳥」としてしばしば登場するユリカモメ*1。 『伊勢物語』の中では「京には見えぬ鳥」だの「皆人 見知らず」だの言われてしまっていますが、実際にはずいぶんと有名な鳥だったらしく、いろんな作品に登場しています。当時のみやこびとたち…

所蔵作品展 MOMATコレクション(東京国立近代美術館)と皇居二の丸

今日は東京国立近代美術館の所蔵作品展を見て、ちょっと皇居にも寄ってみようという計画。 今日初めて観た中で一番好き 極楽井(小林古径 1912) この繊細な美しさがたまらん。背中を向けている子の灰色地の着物に浮かぶ丸い紋の中の模様はIHSというキリスト…

月のケーキ(ジョーン・エイキン/創元推理文庫)

イギリスのファンタジー作家ジョーン・エイキンによる13の物語。タイトルは一見”メルヘンチック”なのだけど、「桃にブランディ、クリーム、タツノオトシゴの粉、グリーングラスツリー・カタツムリ」という月のケーキの材料そして、さかたきよこのカバーイ…

脳内一人称 (ご注意)『龍と苺』第227話「イケダ社のムサシ」のネタバレがあります 

超弩級展開が続く週刊少年サンデー連載中の将棋マンガ『龍と苺』。 私も読み始めたのはつい最近なんだけど、あっという間にコミックス読破、我慢しきれずサンデーうぇぶりの1週遅れの配信、そしてついに本誌最新話まで追いついてしまった…どう凄いのかは現…

『父が子に語る科学の話-親子の対話から生まれた感動の科学入門-』(ヨセフ・アガシ/講談社ブルーバックス)

科学史学・科学哲学・科学社会学者であった著者(1927-2023)が、1966年、当時8歳(!)だった息子アーロンと行った対話を基に出版された科学入門書。 と言っても、基礎的な科学の法則を我が子に順序だてて教えるというようなものではない。並外れて早熟で…

信長島の惨劇(田中啓文/ハヤカワ時代ミステリ文庫)

主君織田信長からのいじめは日頃から酷いものだったが、中でも徳川家康接待の際の不手際をはげしく罵倒され、折檻されたことは耐えがたく……本能寺の変で織田信長を討った明智光秀が山崎の戦いで敗走する途中、落ち武者狩りにあって殺害された、暫くののち。…

【ネタバレ】再読『そして誰もいなくなった』(アガサ・クリスティー/ハヤカワ文庫)2024.11.2追記

※末尾部分で『ひらいたトランプ』についても若干のネタバレがあります。ご注意ください。 引っ越しやら何やらでクリスティがごっそり行方不明になってしまって以来、ずっと手元になかったけどつい先日、本屋で赤い背表紙が並んでいるのを見てたら何となく読…

アーティゾン美術館『空間と作品』(10/14閉幕)に行ってきた

数日前のことになりますが、閉幕が近くなってきた『空間と作品』に行ってきました。 今となっては美術館で並んでいるのを見るだけの作品が、生み出された当時はどんな空間で、またどんな人間関係において享受されてきたのかなど、作品を取り巻く周辺にもスポ…

惣十郎浮世始末(木内昇/中央公論新社)

江戸時代末期、老中水野忠邦のもと、天保の改革の締め付けも厳しい江戸の町。 老舗の薬種問屋から火が出て、焼け跡から番頭と若主人の遺体が発見された。両方とも他殺であることがすぐに明らかになる。放火殺人だとすれば下手人は?そして目的は?噂のとおり…

ある子馬裁判の記(ジェイムズ・オールドリッジ/評論社)

オーストラリアの地方都市にほど近い開拓地で暮らす貧しいスコットランド移民の子・スコティ少年の元から、子馬タフが消えた。 小児麻痺を患い、下半身不随となった少女ジョジーは、富裕な牧場主である父が所有する地所からきかん気な野生の子馬を選び出して…

銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件(アンドリュー・カウフマン/東京創元社)

銀行強盗が奪っていったのは、その場にいた13人それぞれの、「今持っているものの中で一番思い入れのある物」。母からもらった腕時計、息子たちの写真、突き返された婚約指輪、昇進直後の給与明細etc。そして「僕」の妻・ステイシーもその場に居合わせ、電…

『紫式部日記(現代語訳付き)』(紫式部著 山本淳子訳注/角川ソフィア文庫)

今まで参考書や問題集にあった一部引用などを断片的にしか読んでなくて、彰子の皇子出産部分と有名な才女批評部分がどう繋がるのかわからなかったけど、通読して解説も読んでみて、初めて理解できた。皇子誕生にまつわるあれこれを記録した祝賀的部分は主家…

今昔物語集(作者不詳・大岡玲訳/光文社古典新訳文庫)

大河ドラマ「光る君へ」の影響で、平安期の古典がちょっとマイブーム。というわけで、手に取ったのは平安時代末期に成立したとされる説話集「今昔物語集」。本書は抄訳ですが、新訳だけあって訳文は読みやすいし、注釈も時として親切すぎるほどたくさんつい…

散楽団はなぜ殺されたのか~「光る君へ」第9話「遠くの国」~

10話を見る前に、先週の最大の疑問について、自分なりに考えた結論をまとめておきます。いろいろ考えてるうちに直前になっちゃった。 1 2~3話の時点で既に、直秀らは放免の、道長は検非違使の上役の恨みや反感を買っている 2 指示(依頼)の意図が理解…

漢詩の会!~「光る君へ 第6回 二人の才女」ネタバレ感想~

ますます面白かった「「光る君へ」第6回。見どころ満載な中でもとりわけインパクトが強かったのが道隆主催の「漢詩の会」でありました。 というわけで、今更ながら個人的な注目ポイントと感想です。 1 発端 ご注進 意外とやるな道隆 共同経営者貴子さま 漢…

『昭和の日本画と洋画 松岡翁 晩年の眼力』(松岡美術館)に行ってきた

2月11日の閉幕も間近、駆け込みで行ってきました。松岡美術館創設者である松岡清次郎氏が70代後半に入った昭和40年代後半以降、公募展等で発表された作品(つまり、その時点で世に出たばかりの作品)を収集し始めた、その成果ということで、昭和後半~終盤…

ローラ・フェイとの最後の会話(トマス・H・クック/ハヤカワポケットミステリ)

図書館で背表紙を物色していて、奇妙なタイトルに惹かれて手に取った1冊。大当たり。 主人公ルークはハーヴァードは出たものの、今はしがない三流大学の教授。20年前家族を襲った惨劇で麻痺した心を抱え、若き日の野望とはかけ離れた鬱屈した日々を送る彼の…

『鈍色幻視行』(恩田陸/集英社)

うぉー面白れー!ずっと積読だったのに、手をつけたら一気に読んじゃった。 映像化企画が持ち上がるたび関係者が死亡し何度もお蔵入りになっている「夜果つるところ」。主人公は世間から隔絶された遊郭と思しき館で、いわくありげな女たちを母「たち」として…

懐かしき、名前をたどれば

(ネタバレ注意)『ナイフをひねれば』(アンソニー・ホロヴィッツ/創元推理文庫)のレビューではありませんが、本書の内容に触れています。未読の方は本記事を読まない方がいいです。ご注意ください。 他にもいろいろ順番待ちの本があったのと、なによりホ…

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