都市伝説解体センター(ミステリアドベンチャーゲーム/墓場文庫)※ネタバレ有り

他のゲームを買おうと思って久しぶりにSteamに入ったら目についたので手を出してみたらなかなか面白かった。私の苦手なホラーテイストだけど怪異は一応合理的に「解体」されてしまうし、絵柄的にもアレなのであまり怖くない。

ストーリーは、

 

女子大生・福来あざみは以前から悩んでいる幻視能力について相談するため、「都市伝説解体センター」を訪れるが、所長の廻屋渉に詐欺のような手口で借金を背負わされ、バイトとして働くことで返済するハメに陥った。

大学の友人が出会った怪異を皮切りにあざみは、人がその場に残した過去の行動の痕跡が見えるという不思議な力を武器に、現地調査員のジャスミンこと止木休美(とまりぎやすみ)と共に、都市伝説の正体の特定&解体に挑む…しかし遭遇する事件には必ず謎のカードが絡んでいて…

というもの。

 

推理アドベンチャーの常で、現場を捜索したり関係者の話を聞いたりしてピースを集め、所々で情報を整理する場面があって、最後に解決、となるのだけど、ここはハッキリ言って超カンタン。登場人物も場面それほど多くないので総当たりで行けるし、間違ってもペナルティやストーリー分岐もない(まさか、実はあったりしないよね??)

特徴的なのはSNS調査で、SNSの書き込みを調べ、その中からキーワードを見つけて検索して情報を深堀して情報を得ていく、というところ。古典的な作品なら、街や村で噂話を聞いて回るとか、新聞記事を探すとかに相当するんだろうけど、さすがSNSと言おうか、面と向かっては言えないような無責任で胸糞な言葉が並んでいる。この無数の悪意、安全な所からの攻撃のどうしようもなさがストーリーの根幹にも絡んでくるのだが、調査自体は深堀すべきキーワードは謎の幻視能力で浮かび上がるようになっているので詰まることもない。

というわけで、推理アドベンチャーとしては物足りないのだが、全体を貫く復讐譚はわかっていても引き込まれるし、現実のあれやこれやが思い出されて暗澹たる気持ちになったりもする。

「廻屋=あざみ」というどんでん返しは、いろいろ妙なところもあるけど、タイミングが良すぎる携帯連絡や幻視能力に説明がついたことで私は納得できた(終盤になり廻屋が復讐者であり、あざみも如月努の関係者だったらしいとわかったときは、娘?クローン?とか頭を悩ませてた私…)。

ただそうすると、あざみがSAMEJIMAの管理人の正体を解体するというのがまさに自作自演になってしまうし、あざみが廻屋の解呪に成功しても結局グレートリセットは止められなかったし、グレートリセットも社会を転覆させるほどのものではなかったし…

もしかするとあざみは、セルフセラピーというか、『インナーカルテット』(かわみなみ)のジュリアンたちや、最近で言えば『ミステリと言う勿れ』(田村由美)のライカさんのような、自分の中の一部分が、歩自身を救うために独立した存在だったのではないか、と思える。ステュアートや千夜子の場合は追い込まれた末に自然におこったことだったけど、歩は超天才なので人格の切り離しを意図的にやって無垢なあざみを作り出し、自分は廻屋として彼女を(時にからかいつつ)教え導き、最後は自分を超えさせる――如月兄妹の引き写しである。

そもそもあんだけ手足となって動く味方がいて、いとも簡単に人を操って犯罪まで犯させている彼女にしてみたら、黒沢のHDDを盗み出してあの5人を誘拐して真実を配信することなど造作もないことで、あざみなど必要ないのだ。

あざみを作ったのは、無垢な目で5人と関わらせること、彼らがクズだと知った上でも助けようと思うのか、悪意であふれかえる世界を無垢な目で見て、それでも救おうと思うのか、その審判をさせるため。歩の全てを理解した上で、解体してもらうため。

結局のところ5ソサエティは法的にも社会的にも制裁を受けることになり、世間の人々も少なからぬダメージを受けた(何もしてなくても、あるいは誹謗中傷させないための活動とか頑張ってた人でさえも区別なく被害受けたわけだが)。となれば歩はあざみに関係なく復讐を実行したように見える。だけど…

もしかしたら歩の予定では復讐はもっと厳しいものだったのかもしれない。グレートリセットも結局秘匿情報晒しなだけで、個々のケースでは深刻な被害もあったが、世の中はすぐに平穏を取り戻した。SAMEJIMAの信奉者たちはテロ事件も頻発させていたくらいだし、歩の能力とカリスマ性をもってすれば内乱や戦争、無政府状態を引き起こすこともできたかもしれない。そうすれば元凶である5ソサエティや黒沢父への人々の憎悪も果てしなく、忘れ去られることもないものになっただろう。

それなのにあの程度で済んだのは、やはりあざみが止めたからではないか?あるいは、グレートリセット期待の連中に「あんたらの期待通り酷い目に遭うやつがたくさんいてよかったね。あんたら自身も含めてだけど。でも世の中の大勢はひっくり返らなくて、残念でした」と痛烈な皮肉を浴びせるものだったのだろうか?

個人的にはやはり、ジャスミンや富入らとの協力を経て、どこにもいろいろな人がいると肌で理解したあざみの「グレートリセットは止めるべき」という「審判」を半分は尊重して、プランBに切り替えたと妄想したい。

まあラストを見る限り、まだ妄執から逃れられていない感じはしてしまうが…

 

 

ビジュアル的にはファミコンかと思うような粗い絵が精緻とは真逆の世界観に妙にマッチしているし、古風なドット絵なのにあざみやジャスミン、あざみの友人の美桜、女の子が皆えらく(ビジュアルは)可愛い。個人的には第3話に登場する木村さんや第5話の清元さんといったアラサーの女性たちも好み。中身も含めるともちろん断トツあざみとジャスミンですけどね!しかしジャスミン、いろいろカッコいいけど25歳警視正はおかしすぎるだろ!あと細かいことだけど大学3年のはずの美桜が23なのもあれ?とひっかかって1話の終わりでああそれで遅れたのか…と思ってたらあざみも23なのよね。あざみはそもそも本当の大学生なのかも定かじゃないからいいっちゃいいんだけど、どういう意図での年齢設定にしたんだろう。

主題歌は作中で何度か流れてイイなと思っていたけど、ラストで歌詞字幕ついて流れたときはヤラレタと思った。実にストーリーにマッチした曲です。

 

欲を言えばもう一度最初からやりたいというゲームとしての面白さがもっとあったら良かったけど、一周だけでもかなり印象強く楽しめました。

 

 

ところで…所長の名前は廻屋だし、決めのシーンは掌印結ぶみたいな動作はするし「解/体」だし呪術廻戦を髣髴とさせる要素が多いがSNSの噂話で両面宿儺の話題まで出て来たのには笑ってしまった。

 

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