イギリスのファンタジー作家ジョーン・エイキンによる13の物語。タイトルは一見”メルヘンチック”なのだけど、「桃にブランディ、クリーム、タツノオトシゴの粉、グリーングラスツリー・カタツムリ」という月のケーキの材料そして、さかたきよこのカバーイラストから予想されるとおり、美しさ楽しさの中に不気味さ恐ろしさを秘めた「奇妙な味」の短編集である。何らかの喪失があって、それが回復されるという展開が多く、児童文学らしく前向きなメッセージも込められている…にもかかわらず、回復の過程や結果は苛烈だったり皮肉だったり哀しみを伴うものだったり、一筋縄ではいかない。境界の向こう側の力は、良きにつけ悪しきにつけ、予測通り、思い通りにはならないものなのだ…
ラインナップの中では、「オユをかけよう!」「ドラゴンのたまごをかえしたら」「バームキンがいちばん!」のようなユーモア味のつよいものが好き。その一方で、「羽根のしおり」のラストも何とも言えずしみるし、「月のケーキ」や「ふしぎの牧場」の曰く言い難いラストも印象深く、心に残る。
グリーングラスツリー・カタツムリ欲しい…はぜいたくとしても、見てみたいな。ブナの樹のあちこちできらきら光っているところを。