古池に飛びこんだのはなにガエル?(稲垣栄洋/辰巳出版)

芭蕉の俳句から万葉集の長歌まで、日本の古典文学(韻文)で描かれた生き物たちの姿を生物学の知見に基づいて解き明かす科学&文学エッセイ。図書館でたまたま目について借りて来た本ですがすっごく面白かった!!

「どうしてだろう?」と思いながらわからないまま放置してたことがようやくわかったり、「言われてみれば…」と読んで初めて気づいた事象も多くてわくわくしながらあっという間に最後まで読んでしまった。たとえば…

 

気温の低い時期に最初に活動を始めるのはアブ。しかしアブは不器用で複雑な構造の花には入り込めないので春の七草の花はみな単純な構造をしているとか、アブは黄色の花を好むので春は黄色い花が多い とか

 

一方、ハチは、複雑な構造を理解して蜜まで辿り着く能力があり、一度理解した構造を適用できる同じ花を回る習性がある。そして紫色が好き→紫色の花はハチだけに来てもらうため複雑な構造をしていることが多い とか

 

イネの穂にみのった実が脱落せずが穂が垂れるだけなのは元々は突然変異(実が地面に落ちないと本来は繁殖できない) とか

 

なかには

地下道など人間が作り出した地下空間で「チカイエカ」というアカイエカの亜種が進化していて、季節に関係なく冬でも吸血する(ひぇえええ)

という鳥肌立つような話も…

 

様々な蘊蓄もそれだけで楽しいのですが、その中に定型的な季節感・生物観にとらわれず自分の目や耳で捉えた姿を活写する原歌(句)と作者への愛と敬意が溢れていて心地よい。

 

取り上げられてる作品は私でも知っている歌や句も多かったのですが初めて知った中では

 

秋の蚊の よろよろと来て 人を刺す(正岡子規)

生きて仰ぐ 空の高さよ 赤蜻蛉(夏目漱石)

有る程の 菊投げ入れよ 棺の中(夏目漱石)

冬蜂の 死にどころなく 歩きけり(村上鬼城)

 

などが印象に残りました。村上鬼城は名前も知らなかったけど、他の句も読んでみたい。

 

ところで著者は、農学博士で農水省などを経て、現在は静岡大農学部教授として在任中。つまり農学畑の方で、短歌の方は40を過ぎて始められたとか(ただ、本書を読む限り文学への関心は少年時代から高かったのではないかと思う)。本書にもアレな出来の歌と辛口コメントの自作自演が随所にコラムとして挟まれているのですが、取り上げられているのは和歌より俳句の方がずっと多い。なかでも松尾芭蕉が57作中7、小林一茶と夏目漱石がそれぞれ5と目立つ。これは著者の好みも勿論あるのだろうけど、俳句が発展した江戸時代以降の方が、自然をつぶさに観察し描写しようとする潮流が強くなったために、本書の趣旨に合致する作品・作者も多くなったということなのかなとも思う。

 

 

スポンサーリンク