散楽団はなぜ殺されたのか~「光る君へ」第9話「遠くの国」~

10話を見る前に、先週の最大の疑問について、自分なりに考えた結論をまとめておきます。いろいろ考えてるうちに直前になっちゃった。

 

 

1 2~3話の時点で既に、直秀らは放免の、道長は検非違使の上役の恨みや反感を買っている

直秀の方はわかりやすいが、道長も身分が明らかになって解放されるとき、怒りもせず、さりとて優しい言葉をかけたり軽口で和ませることもせず、頭を下げる相手をしれーっと無視して行ってしまった。ここは道長の気さくな性格からするとちょっと違和感があったのでよく覚えている。道長も彼らを好かなかったのだろう。

道長が紛らわしい恰好でウロついていたせいで、余計な手間をかけさせられ、恥をかかされ、上の者から(放免はあの上役から、上役はそのまた上司から)さぞかしとっちめられたことだろう。気分がいいはずがない。それなのに道長は、畏怖や好感を抱かせるかわりに「何考えてるかわからんお気楽なぼんぼん」と舐められ反感を持たれてしまった。

2 指示(依頼)の意図が理解できない

自家で捕らえて引き渡してきたのに、今度は解き放てとか言って賄賂を渡してくることからして意味不明である。理由を聞いても「未遂だから」…だったら東三条殿で捕まえたときに見逃しておけばいいじゃん!

道長はこの当然の疑問に対する答えを用意していなかった。「父も病に伏しておる折、間接的にでも流血や荒事に関わりたくない」でも、「あいつらの散楽のファンだからあまり惨い目に合わせたくないんだ」という真実に近い理由でもよかったのだが。

3 まひろ乱入による誤解

このとき、折悪しくまひろ(と乙丸)が連行されてくる。貧乏とはいえ貴族だし、為時と花山帝の関係を思えば2話に続く大失態の誤認逮捕なのだが、道長は慌てて「自分の知り合いだから」の一言で解放させてしまう。まひろや為時の評判を思いやってか、右大臣家の威光ですべてを片付けるのが身についているせいなのか。「なんと、この方は帝の信頼あつき藤原為時殿のご息女であるぞ。このことは内密にしてやるから、すぐいましめを解いて差し上げろ」とでも脅してやればよかったのに…

で、まひろの立場が明かされないまま道長がまひろを連れてそそくさと帰ってしまったので、「散楽団(盗賊団)と繋がってるあの女が目当てだったんだな。盗賊のために口を利いてやることで、女に良いとこ見せてモノにしようとしてるんだろう」と察した(察せてない)検非違使の目つき。道長が賄賂を渡してきた意図が「腑に落ちて」しまった。

4 詮議なし?

その後の道長は検非違使に接触していないようで、流罪になったとか出立の日とかは又聞きです。一方、入牢中の散楽の面々の台詞から、詮議も行われていないことがわかる。

あの時代、実質的には流罪が一番重い刑罰なので、東三条殿の未遂だけなら流罪になるのは重すぎる感じだし、詮議をしてないなら余罪の自白もないはずなので、ここはちょっとよくわからないのですが、想像を逞しくするならエア詮議で自白をでっち上げたのだろうか(いや実際は正しいんだけど)。

5 フォローの大切さ

道長は右大臣家の立場と、直秀との関係を他の者に触れられたくない繊細な気持ちの両方があって、「どうなったどうなった」と踏み込んでいけない。しかも内裏侵入を始めとして余罪があることを知っているから、流罪にも変に納得してしまって「重すぎるだろ!」と怒鳴り込むこともない。

で、流罪はやむなしだし、拷問も受けず身体が無事なら直秀たちならどんな土地でもやっていけるだろう、とか楽観したから「一緒に見送りにいこ」とかまひろを誘うんだけど(時代劇で、善人だけど罪を犯してしまったゲストキャラが、刑を「江戸処払いを命ずる!」で済まされて、ラストでは見送る主人公たちににっこり微笑み、一礼して去っていく…あのイメージですね)

しかしあの検非違使の立場に立ってみるとですよ、女を連れ去った後は、酷いことしていないか様子を見に来ることもなければ、量刑がどうなったかも訊いてこない…

本当に連中を助けたいならば当然、どうなっているのか確認が入るだろうし、音沙汰ないということはどうでもいいということなのだろう。女が仲間はもうどうでもいいと思ったか、道長がいったんモノにしてしまえば下賤の女なんか仲間が殺されて泣き喚こうがどうでもいいと思ったか…となる。身分違いな者にも真摯な道長の性格とか、知る由もないので。

6 流されるまでもなく

流罪というと、なんか歌詠んだり怨霊になったり…という肉体的には過酷ではないイメージがあるけどそれは偉い人の話で、流刑地で一定期間の強制労働をさせ、刑期終了後はその地の民として登録し、そこでずっと生活させるものであったようだ。

普通の旅だって命がけだった時代、貴人や高僧ならともかく、平民以下の連中を流罪にするのって物凄く大変で面倒臭いしコスパ悪いことこの上ない感じだ。

現実にどう運用されていたかはわからないけどドラマ上は、多人数の流罪は滅多に行われないし、流罪と決定されても実際には内々に鳥辺野で始末してしまう、というのが横行していたように見える。もちろん違反行為なので(だから道長に問い詰められた門衛は言い渋った)、記録上は「〇月〇日の卯の刻に流刑地に向けて出発したが、旅の途中のどこそこで病に倒れ、現地で埋葬して帰還しました」とか「出発日を前に牢の中で病を得て亡くなったので鳥辺野に運びました」とかで辻褄を合わせているのだろう。

これは表向きは検非違使の与り知らぬこと、放免が勝手にやって嘘の報告をしてる、ということなんだろうけど上役はもちろん実態を知ってる。七人もの流罪を放免に任せれば確実に殺されるとわかっていたはずだ。それを避けるため、信頼できる別の部下に報酬も約束して任せるという方法をとることもできた。そもそも流罪になどせず、適当な刑で終わらせることもできただろう。

でも彼は、まだボンボンに過ぎない道長の権力を舐めてた(というか正しく見積もっていた)し、道長の心情に寄り沿うつもりもなかった。たぶん兼家が相手だったら、一言言われただけでもその真意を必死で確認して意に沿おうとしただろうし、道長に好感を持っていたら、そうでなくても道長の性格を理解していたら(助けるためにもっと賄賂取れるから)、真意を確認しようとしただろう。

そうだったら、お灸程度に痛めつけて釈放、で終わっていたかな。

 

 

いずれにしても、やりきれない結末である。

良かれと思ってしたことが仇になり、踏み込めない一歩が命取りになる。そして、念押し・フォローの大切さ。うるさいくらいがちょうどよい。この悲劇が道長を変えていくことは間違いないが、どう変えていくのかはまだ、まったくわからない。

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