漢詩の会!~「光る君へ 第6回 二人の才女」ネタバレ感想~

ますます面白かった「「光る君へ」第6回。見どころ満載な中でもとりわけインパクトが強かったのが道隆主催の「漢詩の会」でありました。

というわけで、今更ながら個人的な注目ポイントと感想です。

 

 

1 発端

ご注進

権力闘争には興味なしと思われていた道長が「敵対勢力が有望若手を懐柔しにかかっている」という情報を道隆に注進(本筋と関係ないけど、この時の道隆のくつろぎ方がだらしない中にも気品があって非常に宜しい。しかもでっかい酒甕2つは末路を予感させる…)

意外とやるな道隆

模範的な嫡男と見えていた道隆が、父にはこの情報を隠し、自分で対処すると決意。父に盲従するのではなく、家(と自身)のためには父を出し抜くことも辞さないしたたかさ。いや、これこそ模範的な嫡男の姿なのかもしれない。

共同経営者貴子さま

道隆の妻・貴子が即座に漢詩の会を提案し、道隆も即採用する(貴子の聡明さと共に、単に夫婦仲が良いだけではなく、一家の栄達・繁栄という仕事上のパートナーとしての息の合い方)。

漢詩は苦手

ナイスアイディア兄上義姉上と心から褒めつつ、自分は出席辞退する道長「漢詩は苦手で…」(父には内緒で自分たちに注進して、こいつ意外とやるじゃんと思わせておいてこれ。二人も爆笑してましたが、人に警戒心を抱かせない愛嬌が、道長の武器なのだろう。今のところは)

 

2 開始前

為時家の事情

漢学者である為時にも出席してくれと声がかかり、絶対ムリ!と辞退する弟に代わり、まひろが随行することに。(母の死がもたらした父へのわだかまりが解消されつつあることが感じられる場面だけど、道長と同じく、想いと訣別するために政争の場、家を守る戦いに参画してねば、という無理も感じる。それにしても、惟規クン連れてこうとするのは無理ですよ危険ですよパパ。)

陽キャ(?)がやって来た

当日。清原元輔&ききょうと為時&まひろの衣装の差が…元輔だって特別裕福だったわけではないと思うけど、為時家のビンボーぶりが際立つ。(ただし元輔もききょうもそこはまったく気にしていないようで、元輔は為時を評価し久しぶりの再会を喜んでいるし、ききょうもまひろをライバル視するというよりまひろの才を楽しみにして期待しているように見える。)彼女がこれからずっとこのキャラで突き進むのか、別の顔を見せることがあるのか、今はまだ、とんとわからない。

来ないはずの人が…!?

道隆に対して断っていたし、事前の出席者名簿にも名前のなかった道長が急遽参加。おおげさな驚きは見せないが、まひろがいることは知らずに来たように見える(兄道兼が犯した罪のこともあって、まひろとは距離を置くしかない、と思い詰めていたはずだし)。最初は断ってたけど「苦手から逃げちゃだめだ」と思い直して参加することにしたのか、それとも「漢詩は苦手で」といったん断ったこと自体、兄夫婦に警戒させないための(意識的か無意識かはともかく)フェイクだったのか。

二人の「あっ」と思いつつ今さら逃げ場のない感じが緊迫感あってなかなか良い。

3 開会

お題は「酒」

これって、その場で知らされるんですよね…??若き俊才が学才を競うあそびなんだから。お題があらかじめわかってたら簡単過ぎるよね…

漢詩がダメな道長がちゃんとやれたのは、主催者側だから道隆通じて情報もらってたのか?あるいは、苦手といっても惟規のように本当にムリムリムリ!というほどではなかったのか。

パクリと言う勿かれ

紙を机の上に置かず、手に持ってさらさら書くのって、優雅ですね。

公任以外の三人は白楽天(白居易)の詩そのまんまだそうです。白楽天は唐の大詩人で膨大な数の詩文を残しているし、それをまとめた『白氏文集』は平安貴族にとって必須の教養だった。みんな揃ってを出してくるのも無理はないのかな。ネットの情報も参考に調べていくと、3つとも『白氏文集』に収録されている詩であった*1

古典の詩をそのまま書くだけなんて…と軽んずる勿かれ、これだって考えてみればかなりたいへん。何百何千という詩をそらで書けるように暗唱し、お題に応じて、かつその場の雰囲気、自分自身の心情に沿う詩を即座にアウトプットできなくてはならないのだ。前の人と被ってもダメなわけだし…

万葉集の頃から、その場その時の心情を載せて口ずさんだ「古歌」が記録されているけれど、それもひとつの文学的営為だということですね。

もちろんその場で自作した公任の凄さは言うまでもない。

行成:友情のうた?

行成が選んだのは「獨酌憶徴之」。この「微之」というのが、ききょうが言及した白楽天の親友・元微之のこと。白楽天が、昨春別れて遠方にいる親友を思って詠んだ友情の詩です。

私には行成がこの詩を選んだ真意が一番わかりにくかった。花山天皇とは従兄弟同士で、右大臣家とはライバル関係にある義懐の甥なのに、義懐の若手飲み会の情報をこっそり道長に教えてくれた行成。以前から交流のある道長に対して情があるのか、まだ若すぎて政治的に動く意識がないのか。

もしかして、みんな仲良くやってた頃の友情を惜しむ気持ちを託したのか??若い道長たちより更に6歳も年下だと考えれば、無理もない心情ではある。

斉信:早く…早く出世を! 

斉信は「花下自勸酒」。花の下で手酌で自分に酒を勸める詩。後段は急に自分の年齢の話になり、三十はまだ若いなんて言ってくれるな、もう人生の1/3は過ぎてしまった、と詠ずる(※三十で1/3というのは「百歳」が人間の一生を意味することから来ている言葉遊びのようだ)。終わりつつある若さを惜しみ焦る気持ちと、満開の花、満々たる手酌の盃には今を楽しむ明るさが混じり合った複雑な味わいのある詩。wikiによれば白楽天が科挙に合格したのは29歳の時だったそうなので、それを考えるとますます面白い。 

これを選んだ斉信の胸中とは。

前途は洋々とひらけているはずだったのに、出世は思うに任せない。早く出世して自分の力、才覚を活かしたい…という感じでしょうか。

第5回では妹・忯子(よしこ)が帝の寵愛を受けているにもかかわらず、兄たる自分は思ったほど引き上げられず、今回も身重で具合悪く伏せっている妹に口利きを頼む思いやりのなさを見せ、更には帝には一顧だにされていないことをわからされる場面があるので、この詩を持ち出した切実さ、みっともなさが余計に身に染みる。第6回の終盤では忯子がお腹の子もろとも亡くなりました。切り札を失った彼がどう身を処していくのか、気になるところ。

道長 あなただけに伝わるメッセージ

「禁中九日、對菊花酒、憶元九」。「元九」も元微之のことで、これも行成のと同じく元微之を思う友情の詩。酒は盃に満ちているが、一緒に飲む相手はいない。菊花のかたわらに立って、元微之が作った「菊花」詩を日がな一日口ずさんでる、という感じの内容です。

おそらくここは行成との対比になっていて、行成は友情の詩を友情の詩として引用したのに対し、道長は友情の詩を表向きはそのまま友情の詩、まひろに対してだけは恋情をこめて引用した。たぶんまひろ以外の人たちは「ホスト側からの参加者が無難にこなした」としか思っていないはず。

公任:格の違いを見せつける

花山天皇の治世を唐の太宗の貞観の世にたとえて「今の世をあらためる必要はない」と絶賛する即興の自作詩。唯一の自作ということで才の違いを、治世の在り様に言及することで視野の広さの違いを見せつける。まさに、格が違う…といっても、内容は白々しいヨイショ詩なわけですが。

しかしこのヨイショも曲者で、律令制が崩壊しつつあり財政はひっ迫、人民は貧苦にあえぎ盗賊が横行する…という現状を考えれば、「太平の世だから改める必要がない」というのは皮肉とも取れるし、唐の太宗といえば当初は善政をおこなったが後には楊貴妃に溺れて世を乱した皇帝。表面的には帝の政を称えつつ、今はいろいろ頑張ってるけど、女のために国を危うくしないか心配ですよ、という含みも感じられる。

このままで良いとは思っていませんよ、ということを何の言質もとらせずに伝えたわけで、道隆夫妻としては会を開いた甲斐があったというものでしょう。

それぞれの思いは

こうして見ると、行成は友情、道長は表向きは友情・その裏では恋、斉信は自分の将来、そして公任は国、が今の最大の関心事であることを詩に託して披露したわけですね。

軍配はどちらに…?

公任の詩について、「白楽天のよう」と評するまひろと、「むしろ元微之のように自由闊達」と異論を唱えるききょう。

まひろの方は道長の詩のことで頭が一杯で上の空のところにいきなり話をふられてあわてて返答しましたが、頓珍漢なこと言って大恥かいた、っていう感じでもないんですよね。他の3人が白楽天の詩そのままで、それに続けて公任が自作の詩を披露したから、「公任様の自作の詩も白楽天のようです。素晴らしい」と、当たり障りのない褒め方をしたのだと、受け取られたんじゃないでしょうか。道長の詩もそうですが、二人の心情と周りの受け止め方のギャップがとても面白い!

それに対してききょうは、白楽天よりも元微之に似ている、と異論を唱えた。この場面見たとき、いくら親友だと言っても、ずいぶん唐突に持ち出したなあ…と思いましたが、調べてみると元微之を思って詠じた詩が2つも場に出ていたわけですから、連想するのも自然な成り行きなんですね。

二人の作風の違いなんて私なぞは浅学にして知らないのですが、道隆&貴子夫妻の様子や公任らの反応を見るに、まひろよりも鋭い、正解に近い意見だったのでしょう。

そうじゃありませんか?と同意を求められたまひろのもじもじ。彼女にとっては生まれて初めて経験する決まりの悪さだったかもしれません。

我が社の第一の資源は人材と考えており

まひろに公任の詩への感想を求める道隆と、ききょうの異論を聴いて微笑む貴子。道隆が話をふったのは、発言の機会もなく後ろで控えているだけのまひろたち、そして、内心では娘の学才を誇りに思っているであろう為時と元輔への配慮なのでしょうが、貴子様の笑みを見るに、人材発掘の意図もあったのかも…と思ってしまいます。優秀な若い男も貴重だけどいつも一定にいるし世に出やすい。漢学も含めた教養のある才女はそれ以上に希少な上に接触もしづらい存在だったでしょうから。少なくとも、本作ではこの漢詩の会が、清少納言が定子に仕える伏線になるのは間違いなさそう。

締めのひとこと

「若者たちが何を願い何を憂えておるのか心に刻んだ。帝を支えよりよき道に導いて参ろうぞ」と道隆が締め、イイ感じで終わる。「よりよき道に導いて参ろうぞ」は、「あらためる必要はない」という公任の詩の表面上の意味とは対立するものですが、もちろん詩に込められた真意を汲みとった言葉で、公任も神妙な顔で聞いている。少なくとも義懐の宴会に比べれば格段に上品でハイレベルなものであったことは確かである。

 

4 閉会後

為時後ろ後ろ~!

メンバーが退出しても未練がましく居座る道長に気づかないのか、お尻向けて「今日はお疲れ様でした」とか元輔をねぎらい始める為時パパ。やっぱ出世できないタイプだな。あるいいは道長が静かすぎて気配が消えていたのか…

苦手なんですけどね

呼ばれてもなお、立ち去りかねてまひろを見下ろす道長の視線と見上げるまひろ。個人的に恋愛メインの物語は苦手だしましてや紫式部と道長が初恋同士でという設定は好きじゃない(同じ理由でOP映像も)のですが、この回は許してつかわす。

 

感想戦(ガールズ)

「まひろさまはお疲れなのかしら」というききょうの台詞が面白い。漢詩の会での受け応えをみて「わかってない鈍物」と切り捨てていいたらたぶんこうは言わないだろう。

「私は斉信さまの選んだ歌が好き」というのも言われてみれば、行成や道長が選んだ詩の寂しげな響きや、政治をたたえるだけの公任の詩より、明るさ華やかさとはかなさや哀しさが絶妙にブレンドされた「花下自勸酒」が好き、っていうのは清少納言のイメージに合っているような気がします。

今日は言われっ放しだったまひろは、今後ききょうとどういう関係を築いていくのか。あの悪名高い日記での悪口にどうつながっていくのか、今から楽しみ。あえて白楽天と元微之の友情をクローズアップしたことと、関連が出て来るのだろうか。

感想戦(ボーイズ)

あっさり「道隆さまだな」と鞍替えした様子の斉信に対し、公任はもう少し慎重な感じ。ただ、義懐よりは道隆に高ポイント付けてるのは間違いないでしょう。

そして話題はききょうに移る。まひろがスルーされたのは、道隆の問いへの返答が可もなく不可もない無難なものだったからだと思います(頓珍漢だったら絶対ネタにされてた。)

斉信や公任と清少納言の交流は「枕草子」にも描かれているので、(「光る君へ」でそこまで描かれるとすれば)その伏線ともなり得る出会いとなるはず。

元微之に似てると言われたことは、公任にとって不本意だったのかな?あまりうれしくなさそうに、しかし評価として的外れだと切り捨てはせずに「出しゃばり」と態度についてだけ難癖つけてるし。

二人の後ろでキョドッてる行成がまた可愛い。

 

5 漢詩と和歌

その夜、道長からまひろに届けられた恋の歌。今度は「伊勢物語」に登場する歌の引用*2

漢詩は公的なもの、和歌は私的な想いのやりとり、という言い古された「常識」が、ドラマの中で見事に活かされた対比でもありました。

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