紳士と猟犬(M・J・カーター/ハヤカワ文庫)

19世紀のインドを舞台にした歴史ミステリ。といってもミステリ色はそれほど強くない、冒険小説です。

本屋で偶然手に取って、カバー見返しの登場人物紹介に<イギリス東インド会社>の下に探偵だの軍人だの役人だの、同社所属のイスラム教徒だのが列挙されているのを見て、すぐにレジに直行。なにしろ東インド会社といえば教科書でお馴染みですが、東インド会社を題材にした小説や歴史の本というのは読んだことがなかった。と、ちょっとワクワクしながら読み始めましたが、期待を裏切らぬ面白さでした♪

 

 

1837年9月のカルカッタ。

イギリス東インド会社の若き少尉エイヴリ―は、本国ではろくな仕事につけそうもなく、インドに憧れてやってきたものの、土地に馴染めず、将来に繋がるような仕事も与えられず、鬱々とした気持ちを酒と賭博で紛らわせ、結果すくなからぬ借金まで抱える身となっていた。

そんなある日、彼に大きな仕事が命じられる。ブレイクという男に同行して、旅先で行方不明になった詩人マウントステュアートを探せというのだ。

マウントステュアートは高名な詩人(エイヴリー自身も大ファンである。彼のインドへの憧れというのも、マウントステュアートの詩によって植えつけられたものだった。)だったが、スキャンダラスな詩で物議を醸し、出版を許可した東インド会社まで巻き込んだ訴訟騒ぎに発展しそうな事態になっていた。対処のために本人を連れ戻さねばならないが、マウントステュアートは次作で謎の暗殺集団「サグ」を題材にした詩を書こうと、取材のためジャバルプルにある東インド会社サグ対策部に赴き、その後行方不明になってしまったのだという。

詩人探索の仕事を引き受けた「探偵」ブレイクは、かつては会社に所属していたらしいが今は現地人の街で現地人同様の自堕落でみすぼらしい暮らしをしている。会社への反発を隠さない奇妙な男で、エイヴリーに対しても無礼極まりない態度を見せるが、こういった仕事には猟犬のような能力を発揮するらしい。

雲を掴むような仕事への不安と、ブレイクへの反感、カルカッタ社交界での望みの薄い恋への未練。しかし命令に従わなければ未来はなく、追い討ちをかけるようにおこったある事件からも逃げ出すようにして出発したエイブリ―は、ブレイクやミル・アジズら同行の現地人イスラム教徒と共に詩人の行方を追う。盗賊が跋扈し、暗殺者集団「サグ」の恐怖が渦巻く困難な道行きの中で、純粋で善良だが未熟で世間知らずだったエイヴリーはインドや会社の現実を目にし、ブレイクらとも少しずつ認め合い始めるがのだが…

詩人はどこへ消えたのか?生きているのか?彼が取材しようとしていた「サグ」とはどんな集団なのか?あるいは、サグ対策本部では何が行われているのか?サグを援助しているというドゥーラ藩王国に蠢く陰謀とは?

困難と勇気、反発と友情、信頼と裏切り。特に後半、藩王国に入ってからの急展開はいかにも~なスリルや爽快感、意外性もあって一気に読める。そしてやるせなさが残るラスト。冒険小説はこうでなきゃね(でも恋の結末には正直ズッコケたw勝ち馬に乗るとはまさにこのこと)。

 

 

それと、解説を読むまで知らなかったのですが、歴史小説と銘打つだけあって実在の人物も何人か登場しているようです。通常の場合、歴史小説は史実を知っていた方が楽しめる印象がありますが、この本の場合は解説に書かれた史実を知らずに読んで、後から史実関連の本を読む方がむしろ楽しめるのではないかと感じました。

というわけで、次はまず解説で紹介されてる『王妃とサグと英国人と』(ファニー・パークス)を読んでみたいと思います…と思ったらあれれ、ググっても Begums, Thugs & Englishmen しか出て来ないぞ(汗)

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