『歌わないキビタキ』(梨木香歩/毎日新聞出版)

2020年6月から2023年3月まで連載されたエッセイを単行本にとりまとめたもので「山庭の自然誌」という副題がついているのでひっそりとした山の生活のよろこびを描いたものと思ってしまいそうになるが、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻等の社会・世界情勢、自身や親族の老いと病と介護、脅かされる自然など、これまで私が読んできた著者の作品よりもずっと、死と不安の影が全体に漂っていた。
でも、その中で懸命に生きる人と自然、そして彼らとの触れ合いの描写が美しい。
共感するところ、勉強になるところ(紹介されてる本や著者など読んでみたいのがたくさん)の多い一冊だった。

なかでも山小屋に侵入してきたヒメネズミとの一件は、興味深くユーモラスでありながらわずかに寂寥感も漂うエピソードで一番好き。今は介護中のお母様とのエピソードは現在のも過去のも、心にしみた。

 

 

それにしても、読んでいると山小屋とは言わないまでも、小さな庭付き一軒家で暮らしてみたいなあ…と憧れがまたぶり返してきて困る。私の手に負えるものではないとはわかっているんだけど。

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