「杉本博司 本歌取り 東下り」(松涛美術館)

今日は以前から気になっていた「杉本博司 本歌取り 東下り」を観に、渋谷区松涛美術館へ。今年の6月にエドワード・ゴーリー展で来たのが初めてだったから、今日で2度目の訪問ということになります。

 

 この作品と「本歌取り」というのに惹かれてやってきました。杉本博司については何も知らなかったのですが、芸術家として多方面にわたる活動をされている方のようです。

 

表看板にもあった「カリフォルニア・コンドル」。水墨画かなと思っていたのですが、ジオラマにコンドルの剥製を置いて撮った写真なのだそうです。

本歌は宋の画家・牧谿(もっけい)の水墨画だそうだけど、本当に水墨画のようなモノトーンのグラデーションの世界。

 

掛け軸は「華厳滝図」(本歌は「那智瀧図」(根津美術館所蔵))。解説によると、滝を覆っていた濃い霧が晴れた、ほんの10秒ほどに撮影されたのだという。この一枚だけでも神々しく見えるのに、霧が晴れたその瞬間のおどろきと畏れはいかばかりだったでしょうか。

手前は鎌倉時代の「三鈷剣」。不思議なほどマッチしている。

 

「春日大社藤棚図屏風」この写真じゃぜんぜん伝わりませんが、華やかでありながら幽玄な藤が素晴らしすぎる…すごく好き。

 

「富士山図屏風」(本歌は北斎の赤富士、「富嶽三十六景 凱風快晴」)

雄大さは共通してるけど、画面に漂う静けさと寂寥感が、本歌とだいぶ印象を違えている感じ。

 

「時間の間(はざま)」実はこれが展示のトップを飾る作品だったのですが、これもすごく面白くて惹かれた。

両側に鏡を張った厨子の中に時計を入れてあるのですが、

 

秒針よく見ると…

真ん中の時計は逆戻り、鏡に映った両端は(正常?に)時計回りに進んでいるのです。

わざと稚拙にしてるようないびつな絵と相まって、ぐるぐるした夢の中にいるような気分にさせられる。

 

「数理模型025クエン曲面:負の定曲率曲面」

数理曲面というのは、数式によって定義される局面を立体化したものだそうで、この作品の解説にも、私には理解不能な数式が沢山書いてありました。つまり、その数式が「本歌」であり、このオブジェが本歌取り作品だというのです。なんかすげえ…写真は光の加減か黒くなっていますが、現物は綺麗な銀色に輝いていました。もしかして数学が得意な人には、ああいう数式がこの美しいオブジェのように輝いて見えるのだろうか。

 

「歴史の歴史東西習合図」(History of History Image of East and West Syncretism)

上部にはまってる小さな肖像写真は、左からスターリン、ド・ゴール、マッカーサー、ビスマルク、ダーウィン、マルクス、ニコライ二世、トロツキー、チャーチル、マルセル・デュシャン だそうです。面白いけど、作者の真意は掴めない…とくに最後のマルセル・デュシャンだけは芸術家だし…本展覧会にもデュシャンを本歌にした作品が展示されているくらいなので(本歌の「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」(通称「大ガラス」)からして私にはまったく理解できませんでしたが)、作者が大きく影響されてるということなのかな?シンクレティズムというからには、彼らの思想を混淆し、溶け合わせたということになるんだろうし。いやでもビスマルクやニコライ二世は戦後生まれ(作者は1948年生)の日本人が影響を受けるには年代的にも思想的にも古すぎるような気がするし…やはり風刺的な表現なんだろうか?

 

「いろは歌」ならぬ「愛飢男(あいうえお)」の歌。

前期展示には「いろは歌」もあったそうで、「本歌の「いろはにほへと」とどう違うのだろうか?そっちも見たかったな。

 

タイトル控えるの忘れてしまいましたが、ひととおり見終わって振り返ったときのこの光景にはっとさせられた。たしか、銀塩写真だったと思う。

 

 

「華厳瀧図」の前の「三鈷剣」も鎌倉時代のものだったけど、杉本博司は古美術品の蒐集もされていて、様々な蒐集品も展示されていました。

 

新石器時代の石鏃(せきぞく)。形も色もとりどりで美しい。

黒曜石ってやっぱりいいな…

 

「法師物語絵巻」(15世紀)室町時代の絵巻物で、小坊主がけちんぼ和尚をあの手この手でやり込めるコメディ連作。↓の画は「第七場面 死に薬」で、「和尚様が大事にしてた鉢を割ってしまったので例の死に薬をたくさん食べたのですが死ねないんです」とウソ泣きしている場面。有名な狂言「附子」の本歌という位置づけで紹介されていますが

 

他の場面も面白い。↓ お米ケチっていたのに、ご飯をやたらたくさん炊かれてしまう。

 

「落ちてるものを拾うな、踏みつけろ」と言われたので…踏みつけました。

 

他にも死者の書の断片とか楔形文字とか土偶とかお面とかさまざま。

 

というわけで、とても面白かった!行ってよかった。11月12日までなので、興味ある方はぜひ、お早目にどうぞ。

 

 

ところで、松涛美術館はこじんまりとしていますが建物自体も見応えがあって

特に屋内は趣があって歩いてるだけでわくわくします。

 

また機会があったら来たい。

 

 

【おまけ】

せっかく渋谷に来たので、呪術廻戦・渋谷事変の新キービジュで宿儺様が独り闊歩しておられた109前をチェックしてみました。

 

109をまともに見上げるのも久しぶりな感じするな。もう少し近く、横断歩道がいくつもあるところまでGO!

 

斜め方向からしか見れないけど、この三角の中あたりだな。たぶん。

まっ昼間ですし人もたくさんいるのでキービジュのような妖しさはまったくありませんが。

 

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