『親指のうずき』(アガサ・クリスティ/ハヤカワ文庫)

何か息抜きに楽しく読める本を…と図書館で物色していて目に留まったトミー&タペンスシリーズの長編第3作。トミー&タペンスは、諜報機関ものが苦手な私は短編集の『ふたりで探偵を』は楽しく読んだものの、長編はスルーしてしまっていたのですが、裏表紙に書かれたあらすじをみると、おしどり探偵も今では初老を迎えており、亡くなった叔母の遺品の風景画の謎と、絵の元所有者だった老婦人の失踪がテーマらしい。

これなら…と思って借りてきたらやはり当たりで、息抜く暇などなく、最後まで読んでしまった…

 

 

老人ホームにトミーの「エイダ叔母さん」を見舞った2人。しかしタペンスの方は早々に叔母さんに追っ払われ、トミーの面会が終わるのを待っている間に、施設の入居者で、上品でチャーミングだがわけのわからないことを言うランカスター夫人に出会う。そのときは、老人にありがちな「頭おかしい」状態かと思ったタペンスだったが…

 

 

3週間後、エイダ叔母さん急死の訃報を受けた2人が再び施設を訪れると、遺品の中にランカスター夫人がエイダ叔母さんに贈ったという風景画があった。タペンスは、絵に描かれた運河のほとりの家を、どこかで見たことがあったことを思い出す。しかし当のランカスター夫人は海外に行っていた親戚が帰国して面倒をみることになり、退去してしまったという。腑に落ちないものを感じたタペンスは、絵を自分たちがもらってしまっていいのか元の持ち主に確認したい、と称してランカスター夫人に連絡を取ろうとするが、残された連絡先を辿ろうとしても、途中でふっつりと切れてしまって夫人にはたどり着けない。

まさか夫人は何かを知っていて、それが公になるのを恐れた「親戚」にどこかに連れていかれてしまったのでは?初対面のときの奇妙な会話とも考え併せてそんな恐れを抱いたタペンスは、夫人の行方の手がかりを求めて、絵の中の家を探そうと単身で探索に乗り出し、ついに家を発見するのだが、そこは非常に奇妙な状態にあった…田舎の村の噂話の洪水から、タペンスは真実を、ランカスター夫人の行方を探し出せるのか?予定された時間を過ぎても帰らないタペンスに、トミーがとった行動とは?

 

 

…という感じで、推理というより冒険の要素が強いかな。エイダ叔母さんをはじめ、老人ホームの入居者たちや経営者、運河の家で出会った善き魔女アリス、マシンガントークのコプリー夫人、問題の絵を描いたボスコワンの妻で彫刻家のエマなど、印象深い女性が何人も登場して(主人公タペンス自身の活躍は言うに及ばず)、男性陣はやや押され気味(トミーたちも話の脇筋の方では頑張ってるんですけどね。あ、アルバートは本筋の方で秘技を披露してましたが)。特にエイダ叔母さんは登場時は半分わけわからなくなった意地悪婆さんにしか見えないのですが、その後のエピソードを見るとどうやらそれは正当な評価ではなかったらしい。

そしてラスト。冒頭のランカスター夫人とタペンスの噛み合わない会話に、深い意味があったことがわかります。

久しぶりのクリスティでしたがやはり面白い。ユーモアの匙加減が好きだ♪食わず嫌いせずに『秘密機関』から読んでみようかな。

 

 

しかしこの、竜弓人という人(評論家という肩書だけど)の解説は酷い。4ページ足らずの短さなのはいいとして、作品やクリスティについて触れているのは半ページくらいで、残りは全然関係ない、いろんな夫婦探偵ものの映画の蘊蓄を、申し訳程度にトミー&タペンスもの映画・ドラマ情報で挟んでいるだけで唖然とした…

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