『シャーロック・ホームズ 絹の家』(アンソニー・ホロヴィッツ/角川書店)

『カササギ殺人事件』で初めて知ったホロヴィッツをしばらく前に図書館で発見。クリスティオマージュと言われるカササギに対して、こちらはホームズパスティーシュである。なんでも、「コナン・ドイル財団から認定された新しいホームズ長篇」なのだそうだ。もちろんワトソンの手記という形式を踏襲しているけれど、既にホームズは亡く、ワトソンも老いて死を意識するなかで、封印されたあの事件を書き残そうと敢えて筆をとった…という設定で、事件が悔恨を伴うものであることは、冒頭から匂わされている。

 

 

ベーカー街のホームズを訪ねてきた裕福な画商。危害こそ加えられないものの不審な男に付きまとわれているというのだ。アメリカでおきた強盗事件に巻き込まれたのをきっかけに、アイルランド系ギャングの恨みを買い、その男がロンドンまで追いかけてきた違いないという。画商の話に興味を惹かれ、ワトソンと共に捜査に乗り出したホームズだったが、捜査の中でイレギュラーズメンバーの少年ロスが行方不明となり、やがて惨殺死体で見つかるという悲劇がおこる。ロスの姉が口にした「絹の家」という言葉、そしてロスの手首に巻かれていた白いシルクのリボン…ロスは何を見たのか?自責の念にかられつつ、事件解決に一層の執念を燃やすホームズは手がかりを求めて「絹の家」とは何かを探ろうとするが、政府の要職にある兄マイクロフトでさえ逆らえない大きな圧力がかかる。それでも捜査から手を引こうとしないホームズは、見えない敵の罠に嵌り、かつてない窮地に立たされる…

 

権力者の陰謀とか探偵が罠に嵌って窮地に陥るとかのサスペンスは苦手なので中盤はちょっと辛かったのですが、ホームズが反撃に出てから解決に至るまでは、やはり名探偵の独壇場で、「イケイケ~!」という感じになる(笑)ロスの死を境に画商の方の事件は話の片隅に追いやられてしまって、途中で出てくることは少ないのですが、最後にはきちんと結びつくところは快感☆画商の方の事件では、ちょっと腑に落ちない点や、細かいところで妙にひっかかる部分もあったのが、絹の家の方と考え併せると、そういうことか…と腑に落ちる(まあ、最後の方でホームズに看破される衝撃の事実(のうちの1つ)は、理詰めで考えるとバレずに通せるわけはないだろうという気もしますが、19世紀という時代の妖しい雰囲気に押し切られてしまう。)。

パスティーシュものらしく、ワトソンやハドソン夫人は当然として、レストレード警部やマイクロフト、ワトソン夫人メアリー、以前の事件の依頼人、そして端役?ながら某教授までもが登場する大サービス。教授の存在感もさることながら、個人的にはレストレード警部が一番印象に残りました。良い奴じゃん。なかなかここまでしてくれる人はいないよ…

 

 

ホームズファンではないのでパスティーシュとして、あるいは公式続編としてどうかという評価はできないけど、面白く読めた一冊でした。それにしても『カササギ殺人事件』もそうだったけど、本作も読後になんとも言えない胸糞悪さが残る。決して貶していってるわけじゃなく、これはホロヴィッツの個性なのだろうか、他の作品もこうなのだろうかと気にかかる。『モリアーティ』も出ているそうなので、次はこれだな(笑)

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