蟇屋敷の殺人(甲賀三郎/河出文庫)

戦前の作品です。

ある朝、東京丸の内の路上に駐車してあった車から、男の死体が発見された。切断された首が切り口の上に載っている状態で発見されたその死体は、乗っていた車や衣服、持ち物、顔だちからも有名な資産家・熊丸猛かと思われたが、屋敷の捜査を開始させた途端、乗り込んできた男は死体にそっくり。そう、熊丸は生きていたのだ。では殺された男は何者なのか?熊丸は事件に関係しているのか?

一方、新聞記事で事件を知った探偵小説家村橋は、偶然前日に受けた混線電話の謎めいた内容と、首切り事件の状況に奇妙な符合を感じて熊丸の屋敷を探ろうと画策する。知人の伝手で首尾よく熊丸の妻を紹介してもらい、庭を無数の蝦蟇が跳梁し、屋内にも奇怪な蝦蟇の置物が鎮座する「蟇屋敷」に招かれた小説家は、かつて恋した教え子、今は熊丸の秘書となっているあい子と再会したのだが、彼女は何かに酷く怯えており、村橋を屋敷から遠ざけようとする…

 

 

いやーたまりませんね、このレトロモダンな雰囲気。

首切り殺人、蝦蟇ばかりか謎の怪人が徘徊する庭、生きているかのような巨大蝦蟇。

「それは言えない」と堂々と隠し事をする人々、気難しい資産家と美しく奔放な後妻、清楚だが影を帯びた、しかし強情さも垣間見せるヒロイン、そして第三の女。

謎を追う探偵小説家と捜査陣を嘲弄するように次々と起こる殺人やら行方不明やらあれこれ。まさに息もつかせぬ展開で、落ち着いて推理するというより二転三転する状況にドキドキし、謎を追う側のヤラレっぷりにハラハラしたりが楽しい。

探偵役然として登場した村橋はちょっとアホというか飛んで火に入る夏の虫もたいがいにせーよという感じだし、これはバトンタッチかと思った警部もアッサリだし抜かれるし(という言葉で片付けていいのだろうか?)…なのですが、女性三人はいずれも類型的に見えながら、少し類型に収まり切らない魅力がある。

トリックには若干腑に落ちないところもあるし、すべてスッキリ解決といかないところもあるけど、楽しめる作品でした。

 

作者の甲賀三郎(凄いネーミングだ)は、大正末期から戦前に活躍し、終戦の年に51歳で病死したそうですが、解説でも言われているとおり、本当に終戦前に亡くなったのは惜しまれます。戦後にもっとたくさん探偵小説を書いてほしかった!

スポンサーリンク