風間光枝探偵日記(木々高太郎/海野十三/大下宇陀児)/(論創社)

若く美貌の女性探偵・風間光枝の活躍を3人の連作(3人ローテで短編3作ずつ)で描いた表題作と、海野十三単独名義の「科学捕物帳」(こちらの主人公は風間「三千子」)、同じく海野が戦後になって執筆した「蜂矢風子探偵簿」を収録している。

うーん…冒頭の「離魂の妻」(木々高太郎)で凄くロマンチックかつカッコ良く始まるのに、次の「什器破壊業事件」(海野十三)のドタバタでガクッとコケる。海野の作品での風間は、1人で事件を解決することができず、先輩探偵である帆村荘六(海野の他の小説でも登場するらしく、名前はシャーロックホームズのもじりだとか。)にからかわれつつ助力を仰いだり、助手みたいにわけもわからずこき使われたり。そのしょうもなさが可愛いと言えなくもないが…でもちょっと揶揄的な匂いを感じてしまって、ドタバタを心から笑うことができない…こういう昔風モダンな雰囲気は嫌いじゃないだけに残念だ。

一読した感じでは、木々=ミステリ的(シリアス)、海野=ドタバタ(ユーモアというかギャグ)、大下=その中間、という印象を受けました。大下は恋愛や結婚、女性性といったものがテーマになっており、それが最終話である「虹と薔薇」にも繋がっているような気がする。

「科学捕物帳」は一応科学的なトリックが用いられたミステリ仕立ての作品が主体で「○○事件」と題されているのですが、最終話となる第4話だけは「探偵西へとぶ!」というタイトルといい、まるっきり愛国スパイ小説な内容といい、まったく毛色が違う。そして時代が時代だとはいえ、あんまりなラスト……打ち切りか、はたまた作者の放り投げか?と疑ってしまった。

「峰矢風子探偵簿」は戦後の作品で、いずれも夫婦間のいざこざを扱っているのですが、亡妻に瓜二つな女性が男と歩いているのを見かけた夫が相談を持ちかける「幽霊妻」は凄いです。トンデモSF…に分類されるんだろうけど、皮肉なラストが素晴らしい。

 

本全体としては、凄い面白くて感動する、というものではないけれど、古典としてこういうのもあったんだ、と知ることができたのは良かったかな。

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