屍人荘の殺人(今村昌弘/東京創元社)

第27回鮎川哲也賞受賞。最近は受賞作をすぐ買うということもなくなっているのですが、巷でも何やら凄いという評判もあって購入。いやー確かにこれは凄い。一気に読んだ。

 

予想外の事態によって脱出不可能な空間の中に閉じ込められた一団の人々の中で次々と殺人がおきる、所謂クローズド・サークル、「嵐の山荘」モノ。その中でも、若い男女が休暇中に海やら山やらに泊まりにいくと、初日から早くも険悪な人間関係が露呈し、気が付くと外部との交通が遮断され、連絡もとれなくなって、ひとり、またひとりと犠牲になっていく…という、よくあるパターン。読む方としては良い意味でも悪い意味でも安心感を持って進んでいくわけですが…

ところがこの「予想外の事態」というのがまさにまさかの事態で、北村薫の選評にあるとおり、「ありきたりの学生の夏合宿ものかと思って読み進んで行くと~野球の試合を観に行ったら、いきなり闘牛になるようなもの」です。半分は非常に現代的というかリアル(これは最初の方で予想がつく)、半分はファンタジーというかバカミスというか。

しかしこの衝撃の事態は事件の真相と密接不可分に結びついている。このことが本作を「凄エエェェェ」作品たらしめているのだと思う。犯人は突発事態を活かし切り、探偵はその痕跡を看破した。作中でも語られているとおり、犯人捜しには動機は重要ではなく、解決は本格ものらしくきっちりと、この異常事態を踏まえながら、消去法で絞り込まれているのだ。

その一方で、名探偵の頭脳を以てしてもわからなかった、犯人のある行動の動機。これは、とある新本格の古典的名作(※1ネタバレ 記事の下に注)を彷彿とさせる。アレほどの納得性はないのが残念だけど…。これに限らず人間描写はちょっとアンバランスというかいびつなところがあって。心理的な納得性には欠ける。あの事態でパニックに陥らず、逆にそれをチャンスに変えて連続殺人を完遂しちゃう犯人も犯人なら、犯人以外の人々も落ち着いたもの(一番動転した人でも、武器を持って自室に籠城するだけなのだ。)、その一方で、犯行動機を始めとした登場人物たちの心理は大仰な感じがする。かといって書き割りと言うわけではなく、深い印象を残す登場人物も何人かいる(※2 ネタバレ 記事の下に注)。続編がありそうなラストでもあり、次作が待ち遠しい。いったいどんな作品になるか楽しみです。

 

 

 

 

 

 

※1『生ける屍の死』(山口雅也)

 

※2 明智さんや立浪(生い立ちのくだりを読んでからは、銀英伝のロイエンタールのイメージwファンからは怒られるかもしれんけど)とか。ゾンビマスター重元もなんか憎めない。ラストは口封じされてしまったのだろうか…

何より明智さんは、惜しいキャラを亡くしたなあ、というのが本当のところ。颯爽と再登場してくれるないかと、ひそかに儚い望みを抱いていたのに…やっぱりああなってしまうとは。スピンオフで明智探偵の(極薄)事件簿とか、書いてくれないかなー。

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