『外来種のきもち』(大島健夫/メイツ出版)

代表的な外来生物について、移入と定着の経緯や生態、現状などをインタビュー形式で紹介しているのですが、作者はネイチャーガイドとしても活動し、千葉市野鳥の会会長でもあるが本業はなんと詩人……ということで、平易な語り口で知識を提供するだけでなく、創作として心を揺さぶられる作品になっています。

自然保護の啓発用の書籍や記事などで動植物の自己紹介とか一問一答などの擬人化手法をとることは珍しくないけれど、インタビュアーが人間ではなく、自身も外来生物であるカミツキガメが日本各地+αを巡ってインタビューする、という形式をとっているのでインタビュアーと相手との間を通底する共感がすっと自然に受け容れられる。

かといって、相手べったりかというわけでもなく、移入の経緯や今置かれている状況の違い、更には個体としての経験の差(カミツキガメは「最古の記憶が東京オリンピックで川に捨てられに行くときはカーラジオでビートルズ来日のニュースやってた」という老亀)などによる感じ方の違いは常にあって、アレな相手に引いたり、若いコにたじたじとなったり、いけすかない相手にムカついたりすることもあれば、インタビュアーたる彼女にも立ち入ることのできない彼らの思いをただそのまま頁上に載せるしかないこともある(いやもちろんすべてフィクションなんですけどね)。

これが人間がインタビューする形をとっていたら、もっと敵対的だったり罪悪感があってギスギスしたりぎこちなくなったりするのが当然だし、それがなければ逆にウソだと感じてしまって、いずれにしても純粋にインタビューを楽しんだり悲しんだりすることはできなかったでしょう。

インタビューの相手は純朴ペット風から活動家風、ギャル風、あなたは愛を信じますか風まで、語り口に様々な個性を持たせていて飽きさせませんが特に心に残ったのは、

 

ミシシッピアカミミガメのかめきちくん。「僕、大きくならない方がよかったのかな。ごはんを食べない方がよかったのかな」もインタビュー最後の言葉も、涙なくしては読めない。ミシシッピアカミミガメに限らず、同じことが過去何十何百万回行われてきただろう。そしてこれからも行われてしまうのだろう。ペットを飼っている・飼おうとしている多くの人に読んでもらいたい一節。

アオマツムシ嬢(上記のギャルやあなたは愛を信じますかとは別人)のささやかな冒険と新たな人生。美しく爽やかなラストです。それがもたらすものを考えると(人間にとっては)皮肉なことでもあるのかも。それでも、生きることは素晴らしい。

そして活動家ワルナスビ氏の「我々が、馴染まず、まつろわぬものとして生き続けることで、新たな我々が出現することを避ける力となれるのだ。」「(その戦いには)未来はない。この国は我々にとってあらかじめ異国であり、この国では我々にとって生きること自体があらかじめ悪なのだ。」という威勢良すぎる言葉に秘められた絶望。

でも人間が愚かさを捨て去るか、文明を失うか(こっちの方が可能性高そうだけど、そういう事態に陥るときは自然界もとうてい無傷ではいられまい)しない限り、「新たな我々」が生まれなくなることはないだろう。その一方で、日本列島が生まれたときから現在まで、ずっと同じ生態系でやってきたわけでもないし、長い年月にわたる戦いの中で、どこかでバランスが取れる均衡点が見い出せる可能性もあるのではないか…?と思ったりもする。すべてが正しいとは思わないけど、考えさせられるインタビューでした(そういう意味でも活動家らしい)。

 

 

知識的な面でも知らなかったことも多くて面白かったのですが、コブハクチョウが実は外来種だったとか、ヌートリア(動物園から逃亡したのだと思ってたけど)帝国陸軍が寒冷地での戦闘に備え毛皮を取るために移入したのが、敗戦もあって不要となったために野外に遺棄され繁殖したのだとか、日本ではありふれた昆虫であるマメコガネがアメリカに植物の根などに付着して混入したのが大繁殖して農産物に甚大な被害を与えて憎まれてる、というのが特に印象に残りました。

 

市内のpaypay20%還元キャンペーンにつられてあまり行かない本屋の滅多に行かないフロアで目当ての本が入手できなかった代わり、ふと目に付いたのを手に取ったのですが、買ってよかった。不便もあるけど、本屋はやっぱりいいものだ。

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