虚構推理(城平京/講談社タイガ)

「TVアニメ化決定!!」ということで派手にディスプレイされていた一冊。チラチラと裏表紙や巻末の宣伝ページを見て、「妖怪の探偵(妖怪探偵する、じゃなく、妖怪のための探偵)モノ」というのと「虚構」というのにちょっとそそられて手を伸ばしてしまった…最初は2011年にノベルズで出てコミカライズされてベストセラーになった人気作。既に講談社文庫で文庫化もされていたそうなので、今回の出版はTVアニメ化記念で若い世代向けのタイガでも出版、ということでしょうか。

 

表紙通りのラノベ調の会話と心理描写、お約束の重い宿命にクラクラして挫折しそうになりますが(さすがにこれを楽しんだり感情移入したりするには年取り過ぎている)、前半を耐えるとクライマックスの「推理」部分は怒涛の面白さでした。

 

岩永琴子と桜井九郎は(いちおう)恋人同士。しかし琴子は幼い頃に妖怪どもに攫われ乞われて、彼らに知恵を貸して争いごとを収める「知恵の神」となっており、九郎も先祖の野望に満ちた実験的食生活のおかげで、妖怪にすら恐れられる異能の者として生まれついていた。実は九郎には結納直前まで行った元カノ・弓原紗季がいたのだが、彼女との旅行中に河童に遭遇したことで、異質な存在であることを彼女に悟られてしまい、結果フラれたところに、前々から九郎に片思い中だった琴子が満を持して登場、ごり押し恋人となったのだった…

一方、九郎から逃げるように別れて遠方の地で警察官となっていた紗季。勤務地の真倉坂市では「鋼人七瀬」の噂が広がっていた。「七瀬」とは不穏な疑惑をかけられて行方をくらました挙句、真倉坂市の工事現場で鉄骨の下敷きになり顔も潰れて定かでない無残な死体となって発見された巨乳アイドル七瀬かりんのこと。

そして「鋼人七瀬」とは、アイドルだった頃のド派手な衣装に身を包み、頭に大きなリボンを載せて、死の原因となった鉄骨を振り回す、巨乳の、顔のないーー七瀬の亡霊。深刻な被害は出ていないが噂は広まり、ネットにはまとめサイトまでできる始末。警察にも、襲われそうになった、不審な姿を見た…そんな相談がちらほら持ち掛けられるようになっていた。

ある日の帰宅途中、紗季は「鋼人七瀬」と対峙する琴子に遭遇する。ふつうの幽霊や妖怪とは異質な「鋼人七瀬」に脅かされた怪異たちに頼まれて、ここまでやってきたのだという。やがて九郎も現れて3人は、恋人同士+元カノという不穏な関係を孕みながらも「鋼人七瀬」を倒そうと協力を始めるがその矢先、ついに犠牲者が出る。このままでは「鋼人七瀬」は手のつけられない怪物に成長してしまう…

「鋼人七瀬」のカラクリを悟った琴子と九郎は、それぞれの持てる力を合わせて「鋼人七瀬」とその背後にある力に挑む。虚構を積み重ねた先にある、未来を掴むことによって。

 

何しろタイトルも「虚構推理」ですし、帯の京極夏彦と井上真偽の推薦の言葉にも「嘘」・「嘘」とあるとおり、ラスト近くで明らかにされる琴子の「推理」は真実ではない。琴子たち3人は七瀬かりんの死の真相も「鋼人七瀬」の正体もとっくに知っているがそれは明らかにされない。代わりに提示される推理はまさに嘘も嘘、大嘘なのですが、最終的な結論(嘘の)が導かれる過程は非常にスリリングで愉しい(今日も大なり小なりどこかでやっていそうな「あるある」でもある。バトルが始まる前の琴子の言葉は事の本質を突いた鋭いものだ)。ミステリの醍醐味が、謎が合理的に解け、そうだったのか…と悟る快感にあるとすれば、やはりこの穴だらけでアクロバティックな虚構推理もミステリなのだ。複雑にもつれ絡み合った糸が、するりとほどける瞬間は鮮やか(決して元通りにほどけたわけではなく、事実をバラバラに断ち切りもみほぐし、合理性と物語性で縒り直しただけなののだが…)

九郎の方の異能も何のギャグかと思うほど歪でキメラ的である点も含めて、よく考えられていて面白いです。

 

今回は妖怪の被害者が多すぎて個別の妖怪との触れ合いや交渉は少ないし、鋼人もまったくコミュニケーション不可の相手だったわけですが、『虚構推理短編集 岩永琴子の推理』では様々な妖怪たちからいろいろな依頼を受けているようなので、こちらも読んでみたい。ラスボスも再登場するのかな?

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