『進撃の巨人』(諌山創/別冊少年マガジン)第129話「懐古」ネタバレ雑感

意表をつくおっさんズ回でございました…感想は順不同で書きなぐってます。

 

 

<あらすじ>

イェーガー派の激しい攻勢と飛空艇の整備時間を鑑み、一行はキヨミの提案で作戦を変更、地ならしを先回りしてマーレ南のオディハで整備を行うこととする。雷槍で武装したイェーガー派に対し、キヨミらや輸送艦も守らねばならぬ不利な状況下でライナーとアニも苦戦を強いられ、更には鉄道で増援部隊も接近してくるが、何者かによって車両が爆破され、増援は失敗。初めて巨人化したファルコも加わった戦闘の末,出航準備が整うまで何とか輸送艦を守り切った一行。しかしマガトは殿を務めると言ってひとり港に残る。マガトの狙いは追跡されないよう巡洋艦を破壊することだった。マガトはすぐにイェーガー派に発見されるが、危ないところをキースに救われる。鉄道車両を破壊したのはキースだったのだ。二人は協力して巡洋艦の弾薬庫に入り込み、わずかな会話の後、はじめて名乗り合う。そしてーーー

出航した輸送艦の船尾から見渡した港には、大きな爆煙が上がっていた…

 

1 マガトとキース

後悔もいろいろあったでしょうが、これほど穏やかに、そして(アオリにもありましたが) 自分で決めた場所で死んで行けたキャラは、進撃では珍しいのではないでしょうか。

キースは完全に死亡フラグが立っていたので覚悟はしいていましたが、マガトは生き延びて戦後処理に絡むと思っていたので、ここで退場するのは予想外でした(こうなると、完遂・人類滅亡とまではいかなくとも、地ならしは私の予想よりずっと広範囲に行われ、現在の文明レベル、国際秩序が保てなくなることになるのかもしれないという気がしてきた(泣))。そしてこれによって、ハンジさんが一行の指揮という重責を一人で担うことになってしまった…へーちょー少しサポートしてあげてよ…いやそりゃ、いるだけで落ち着くってのもあるかもしれないけどさ。

キースは調査兵団団長から訓練兵団の教官になった男。マガトは戦士隊の教官・隊長から元帥になった男。経歴としても鏡に映したような存在です(そういえば容姿にもちょっと共通点が…)。

彼らは共に、長きにわたってエルディア人の若者たちを導いてきましたが、自分の個人的なコンプレックスや公的な建前から、素直な気持ちで彼らと向き合うことはできませんでした。

マガトが口にした「英雄」という言葉にキースが見せた二つの表情。かつて英雄になることを夢見て叶わなかった男が、最後に特別なことを成し遂げ、その名に辿り着いたとき、その虚しさをひしひしと感じたようでもあります。

一方のマガト。何人ものマーレ戦士を育て、パラディ侵攻を実施した彼はおそらく、マーレ戦士たちを新たなヘーロスに仕立て上げることで、マーレのエルディア人が生きる道を切り拓こうとしたのでしょう。状況が許す範囲で彼なりに良い方向へ持っていこうとしたわけですが、それはマーレという国の大きな矛盾と欺瞞を子供たちだけに押し付けただけのこと。そうすべきではなっかったし、本当は自分の望みもそうではなかった。彼らが英雄などでなく、普通に生きられる世界こそが欲しかった。最後になって、マガトもようやく悟ったのです。

後悔や悲しみもある。でも最後の最後で自分のできることを成し、それは確かに次へと繋がった。それを認め合い、静かに称え合う相手もいる。

弾薬庫に籠ってからほんの数分かもしれませんが、もしかすると二人にとって、軍や兵団に身を置いてから初めての、自分を飾ったり鎧ったりすることのない、安らかな時間だったのではないかと思います。

「あんた」という呼び方も、敬意というか距離感とざっくばらんで対等な親しみを感じさせて凄くいい。最後に思い出したように名乗り合うのも。

 

ああでもやっぱ寂しい…

マガトの意図を知らないガビが、ちょっと上目遣いで「で、隊長は?」って尋ねるときの無邪気な明るさとピークちゃんの涙目の「元帥でしょ」には泣いた…ガビは一番愛されてたと思うし、マガトを一番理解してたのはピークだったろうから…

あと、マガトが子供たちのことを回想するときちゃんとジークも出てきていたのは、クスッとしつつもほろっとしました。成長してからは得体のしれないやつと思っていただろうけど、ジークが落ちこぼれだったころから見てたんだもんな…

キースの方は、車両を爆破したのがキースだったとハンジが思い当るときが来るのかなあ…マガトとは対照的に、誰も知られないままひっそりとというのも、相応しい最期ではあるのかもしれないけど…でもやっぱりハンジさんには気づいて欲しいなあ…

 

2 ヤバい人たち

ところで、ハンジさんがジャンを呼び出して説得した127話。「そんなケチなことを言う仲間はいないだろう」という言葉に、地ならし反対派の私でさえ、そりゃそうだろうけど、そこまで風呂敷ひろげていいんかい、とちょっと焦ったし、「彼らは壁内人類のために戦ってたんだからそんなはずはない。 勝手に死者の代弁するな」みたいな辛口の意見はネットで結構見かけました。

でも今回、キースが取った行動や「胸が震えた。教え子達の成長に…」という台詞を見て、やっぱハンジさんの言は間違ってはいないと思い直しました。

生きてるか死んでるかという違いはありますが、キースも生粋の調査兵。彼は、アルミン達と共に脱出するアニの姿を見て、「マーレ戦士と協力してエレンの地ならしを止める」という彼らの計画に思い至り、それに感動すら覚えて、躊躇なく協力(というか陰から参加)したのです。傍から見れば狂気の沙汰ですが(だって地ならし止めたら島の生存が危ういという大問題はもちろん、いくら敵とはいえ、アルミンたちはフロックら同期を含むイェーガー派と殺し合うことになるわけで、それを「震えた」とか言っちゃってるし)、元々調査兵団というのはそういう連中の集まりなのです。外の世界を、排除するのではなく、調査する、知ろうとする。普通の人間にはよくわからない理念に燃えて、余計で危険なことをやらかしまくる、1巻冒頭から彼らはずっと、そういう存在だったではありませんか。

 

3 フロック(6/10追記)

鉄道使って港に部隊を展開したこともそうですが、思った以上にやるなあ…ふんぞり返って公開処刑とかやってるときはどうなるんじゃこりゃと思いましたが、車力乱入後の対応は迅速で的確だと思います。見直した!

スナイパーガビにやられるのはまあ、仕方ないよね…アップ絵では血しぶき飛んでましたがロングの絵はバンザイポーズだったので、右肩を負傷してると思いますが右腕が千切れたりはしてなさそうだし、港に近い海中に落ちたので死ぬことはなさそう。

1人抜け出して輸送艦を狙う場面はすごくカッコいいんですが、「俺はエルディアを救うんだ!」じゃなくて、「エルディアを救うのは俺だ!」になっちゃうのよね…

「エルディアを救う」という英雄的行為がまずあって、そこに自分がおさまるという思考。その裏には、他者との比較がある。

「そんな勇敢な兵士は誰だ?…そう聞かれたとき、それは俺だって…思っちまったんだ…」

「それが俺の使命だったんだ!!それがおめおめと生き残っちまった…俺の意味なんだよ!!」

自分が特別な存在であると思いたい気持ち、他ならぬ自分が生き残ったことに意味があるという気持ちは彼の場合、4年前から一貫している。まあそれが普通で、どうしようもなく人間らしいところでもあるのだけど…

ただやっぱ、自分のしてきたことの非道さや根底にある怨恨や憎悪を理解し直視することはできてなくて、綺麗に飾ろうとしてる感じが拭えないのが、他のメインキャラとの違いであり、好きになれない部分なのかなという気はする。

 この先は…何とか輸送艦に乗り込み、ひと波乱おこすんでしょうか。

負傷してて立体起動装置も塩水丸被りでアンカー出せるのか?ってことでかなり無理がありそうですが、リヴァイやハンジにはさぞかし言いたいこともあるだろうしジャンにも…と思うとここで乗り遅れるわけにはいかない…

でも、あれこれ考えているうちに、このままパラディに残るというのもありかもしれないと思い始めました。その場合、

 a 地ならしは完遂されず、世界も島も辛うじて救われる(ただしメンバーほぼ全滅)。フロックは自分で島を救うことができなかった挫折感を抱えたまま生き続ける

 b 大陸から地ならしを逃れた艦や飛行船が押し寄せ、大混乱の島で戦う

という展開も考えられるかなーと思ってます。でも残り話数が少ないし、リヴァイハンジや104期たちとの感情的な決着がついてないから、王道ならやっぱり艦に乗り込むのかな?

【6/10追記】

ツイッターで指摘されてるのを見かけて海中に墜落する場面を再確認してみたら、水しぶきに見えるもののうちの一筋が不自然な伸び方で船体に届いていたので、アンカー打ち込んでいると見て間違いなさそう…ということは乗り込んできますね。それにしても、みんなよく見てるなあ…凄い。

 

4 仲間

艦や皆の盾となってボロボロになるライナーとアニ、それを援護する104期たち。ライナーがアニを庇い、2人の危機をコニーが救う。裏切者、売国奴と罵声を浴びながら仲間を(かりそめの仲間も含めて)守り、同胞を撃つ。辛いが、それでも戦いを潜り抜け、支え合いながら現れた姿は胸に来る。ミカサ・アニ、ハンジ・ピーク、そしてジャンとコニーでライナーとか…(泣)

でもその一方で、海中に沈んだダズに手を伸ばしてるアルミンや、冒頭からラストまで、顔に何発も銃弾くらって仰向けに倒れたまま、ずっと放置されているサムエルは…やはり、これしかなかったのか?と詮無い問いかけをしてしまう。

 

5 包丁人マガト

味方の危機を見かねて巨人化して戦線に加わるファルコ。その姿は…鳥のような獣のような…恐竜っぽくもあるような、これまでの顎とはかなり違う姿。ジーク汁の影響なのか?

それはともかく、ピークが危惧したように、ファルコは初めての巨人化で暴走し、仲間にも見境なく襲い掛かろうとします。そこを何とかピークに抑えさせ、静かにうなじにブレード入れてファルコを摘出し、優しくねぎらうマガト。

素晴らしい包丁さばきでした。兵長なんか、最初エレンを手足の先っちょは切り取ってしまうがとか言ってましたからね~まあマガトは戦士たちは何人も見て来てるし、年季が違いますもんね。

 

 

6 キヨミ様とアズマビトたち、そしてオディハ

情況を見てすかさず代案を捻りだすキヨミ様さすが ♪ スーツのおっさんたちはまさかこんなことに巻き込まれるとは思ってなかっただろうに、パニックもおこさずちゃんと雷槍やら銃撃やらに当たらず走ったり、石炭運んだり、頑張ったなあ…無事生き延びて故郷に帰り、家族と再会できることを心から祈ります。(先生、見逃してくれ~)

ここで新たに登場したマーレ南部の港オディハ。パラディから直に飛空艇を飛ばさず、オディハに転戦することになったのは、ストーリー上はどういう意味があるのでしょうか。

・マガトとキースに死に場所を与える(飛空艇がOKなら巡洋艦爆破は不要)

・とりあえず皆が手が空いて、説明したり議論したりする時間が持てる

・重傷を負った知性巨人ズの回復時間が取れる(兵長の回復にも若干のプラス)

・船上でひと悶着(フロックが乗れていれば)

・オディハで何らかの障害・妨害があり誰かが離脱

 などの展開上の都合のほかに、オディハそのものに意味があるのか?

ユミルがうにょうにょに憑りつかれた、あの謎の大樹があった森はもともとエルディアの土地だから、現マーレ領内のどこかにあるはずだし、南マーレといえばブラウス家の訛り、てことはその辺りにユミルの民の一部が住んでいて、そういやブラウス家は森の狩人で…とか考え始めると、こんがらがってわけわかりません…いろいろ妄想するのは楽しいけど。

 

7 リヴァイ・アッカーマン

※ちょっと不安と愚痴と妄想が混じります…

 

兵長……ど、どこにもいない!?と思ったら、ピークの背中にくくりつけられていた。かなりテキトーな感じで…ほっとしてよいやら涙してよいやら。

気になるのは、相変わらず終始無言だし、表情もほぼ見えないし、縛り方のせいかもしれないけど、戦闘や艦の方に目を向けてないように見える。乗船してからは姿も見えない。

うーん…巨大樹の森で目覚めたときや、マガトピークと交渉したときは違和感なく、まごうかたなきリヴァイだったのに(まだジークかい、というのは置いといて)、皆と合流してからはずっと無言なばかりか、前回のイェレナ以外はマーレ組からも104期からも、ハンジさんからさえ一言も話しかけられていない。今回ジャンが「兵長達を呼んできます!」と言ってたからシカトされてるわけじゃないし画面外での会話がないわけじゃないんだろうけど、表に出て来る会話はなく、モノローグもなく、わかりやすい表情もないので、何を考えているのか見えない状態が続いている。シチューパーティにも参加してませんしね…

もともとリヴァイは底を見せないように食べるシーンは描かない、というスタンスがあるようだし、口も包帯ぐるぐるなので食べないのはむしろ当然なのですが、あの我関せずっぽい態度は何なのか、すごーく不安になります。

エレン、それにヒストリアもだけど、ここに来てリヴァイまで何考えてるのか読めないまま引っ張られるのはストレス溜まる…元々よくわからん奴ならともかく、内面が描写されて感情移入していたキャラクターの思考や感情が見えなくなるのって(しかもそれが延々と続く)キツイ。最後には然るべき種明かしがなされるとしても、ちょっとバランス悪いように思うなあ…最後まで読んで初めてわかる、ってこともあるんだろうけど、月刊連載という商品形態ではこのやり方は成功ではないと思う。

振り返ってみると、川から上がってマガトたちと交渉するとこまでと、皆と合流してからの態度がやっぱ整合してない気がする…自分が戦えないからって卑屈になったり遠慮したりする人でもないと思うし。

しかしその間の状況変化っていっても…

と考えたとき思い当ったのが、唯一リヴァイに言葉をかけるシーンのあったイェレナ。車力が救出して川に吐き出された場面(このときまだ荷馬車のアルミン達はまだ合流していない)から夜のシチューパーティまでの間に、もしかしてイェレナと個別に話す機会があって、それが何らかの影響を与えたのではないか?もしそうだとするとそれは何だったのか?

イェレナといえばまずジークとの関りが思い浮かびますが、まだ明らかになっておらず、かつイェレナが知っていそうなことでジークとリヴァイ自身に関することといえば

やはり、アッカーマン関連。

エレンがレストランでミカサ達に開陳したくらいの情報を、イェレナもジーク経由で持っていてもおかしくはないし、シチューのときに104期相手にしたみたいな挑発でか、あるいは単純に興味があってのことか、リヴァイにもその話をした……イェレナの「暴力は奪えない」も、アッカーマンの能力と王家の懐刀という性質が、暴力と切っても切れない縁があることを考えると微妙に関連してくるような気もするし。

そのことが、今のリヴァイにどんな影響を与えるのか?ってのは言い出した私にもわからないけど、アッカーマンが壁内人類の存続を望まないカール・フリッツに反対し、袂を分かった、そのことだけはリヴァイしか知らない事実として残されている。たぶんたまたまでしょうが、コミックス31巻から、人物紹介がただのリヴァイから「リヴァイ・アッカーマン」に変わったことでもあるし、あわーく期待してます。

宿主設定という新たな視点が加わったとき、この4年、ずっと消化されないままきた白夜、それに連動するジークへの拘りについても、(結果的に出て来る答えは変わらなかったにしても)もう一度振り返ることになるだろうし…

 

 

というわけで、長々と書きましたが、おっさん2人の輝きに圧倒された129話でした。それにしても、本当にあと5%なのだろうか?

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