『進撃の巨人』(諌山創/別冊少年マガジン)第127話「終末の夜」ネタバレ感想

まず何というか、「ジャン回」でしたね。内容的には、あれよあれよのメンバー集結!だった前回を補完して、呉越同舟の現状というか、いろいろ棚上げされたものを棚卸して在庫確認しました、という回でしたが…面白いし良い場面も沢山あるんだけど、前回に引き続き、奥歯にものが挟まったような、ジグソーパズルのピースを嵌め込んでみたら、合ってるはずなんだけど微妙にギチギチしてて次の瞬間砕け散りそうな、そんな不安感が拭えない。とりあえず、キャラ毎の感想を。

 

1 ジャン

まず最初のページを開いて画だけが目に飛び込んできて、えええええっとなる。目抜き通りを見下ろすバルコニーで、昼間からのんびり酒をくらう男。窓越しに見える室内には綺麗な嫁と、嫁と同じ黒髪の可愛い赤ん坊――ジャンの未来予想図なわけですが、立地はいいのかもしれないけどこの家、邸宅って感じでもなく、救国の英雄の住まいといしてはかなり小市民的な感じするぞ(笑)

嫁の顔ははっきりしないけどミカサ、しかも初めて出会った頃のミカサが成長したようなイメージが色濃い(右の頬に傷らしきものもあるけど)。「そうだろ?俺達が命懸けで戦ったから」というモノローグも、窓越しのミカサの横顔に同意を求めているようにも聞こえる。

はじめは「ジャン…まだミカサのことを…」といじらしく感じましたが、読み返してみると、この掴みどころのないミカサのイメージは、今の、現実のミカサへの恋愛感情というよりも、訓練兵時代のジャンが憧れていた、快適な内地の暮らしの夢に近いのではないかと感じました。あの頃漠然と思い描いていた街での快適な生活、美人の同期が嫁さんに収まって、子供もできて…みたいな。

しかしそこで、窓を叩く音。ここは、トロスト区の扉を塞ぐ作戦で意識を失い、家族の夢に埋没しかけたエレンを、アルミンが窓を叩いて呼び戻す場面を彷彿とさせます。窓の中、あたたかく停滞する夢の世界と、外の辛く厳しい、しかし先へと続く道。

ハンジさんやマガトとの議論を見ても、至極もっともでバランスの取れた(現実見えてる)考え方をするジャンですが、損得考えれば勇気あるバカとしか言いようのない選択(4年前のあの日に調査兵団を選び、兵団が崩壊した今も調査兵団であり続ける)をしてしまう熱さ、人としての正しさも兼ね備えいているんですよね…それはやはりマルコとの何気ない会話とその後の彼の死に負うところが大きいんだけど、4年の時を経て、ついに加害者の口から真実を聞くことになります。

マルコの「まだ話し合っていないじゃないか…」という最後の台詞は、あの場面では弱者がやみくもに対話を求めることの虚しさ、世界の残酷さを表しているように思いましたが、ここでこういう意味を持つことになるとは…それと、巨人に襲われたにしてはマルコの遺体の損傷が中途半端だったのがちょっと気になっていたのですが、ここも見事に回収されています。さすが!

責めて裁いてとやたらしつこい(そのくせシチュー椀抱えてる)ライナーに怒りを爆発させ、勢い余ってガビを蹴ってしまってハッとしたり土下座されてフラフラ森に入っていったり、翌日のガビへのやさしさとか…いちいちいい男過ぎる ♪ 死なないでくれ!!

 

2 ハンジ

エレンを止めたとしても島を確実に守る方策がないことをジャンに指摘され、それでも「虐殺はダメだ!」と叫ぶハンジさん。確かに「力なき理想は空虚」の典型みたいな感じで、ハンジさん自身、それをはっきり認めているほどだ。それを愚かだとか現実見れてない、と嘲り、利敵行為だと非難することはたやすい。だけど…

これって、ウォールマリアが破られる前、「何の成果も得られるアテもないのに、多くの若者の命と多額の税金を巨人の腹に注ぎ込む狂人集団」と思われてた頃の調査兵団と、よく似た立ち位置なんですよね。大人しく与えられた壁内の平和な生活を地道に生きておればいいのに、カッコつけて雲をつかむような理想を掲げて突進していき、挙句、自分たちが死ぬだけならまだいいが、無駄な税金を使うばかりか、巨人を壁内に引き込む引き金にすらなりかねない、つまり、パラディ住民にとって百害あって一利なしみたいな存在。

でもそういう名もなき狂人たちが途切れず続いたから、勝算のない戦いをずっとあきらめなかったから、キースがグリシャと出会い、エルヴィンやハンジやミケ達が続き、リヴァイが地下街から引っ張り出され、エレンが巨人との戦いのさなかで巨人の力に目覚めることとなったのだ。

それにしても、心臓を捧げた仲間たちから見られている、とは、またしても…調査兵団団長とは因果な商売だ。しかしエルヴィンのときとは違って、今回の仲間たちはハンジの心が真に望む方向に背中を押している。それはハンジ団長の心が嘘偽りなく、「人類の自由を目指す」という調査兵団の目的と同じ方向を向いているから。それがハンジの思い込みに過ぎないのかもしれないけど、結局、死者に意味を与えるのは生者しかいないのだ。

 リヴァイがアルミンを生かしたことと同様に、エルヴィンがハンジを団長に選んだことが間違いではなかったと、証明される日が来て欲しい…これはもう、私の願望なんですけどね…

あと、細かいことだけど、馬車で港に向かうシーンで「アズマビトは本当に頼れるのか?」と訊くマガトに、「頼るしかないでしょ」と返すハンジさん。対応が雑になったというか素に戻った感じがするのがちょっと笑えた。こういうささいなやり取りは、ホントいいなあ…

 

3 アニとミカサ

アニの冷静な指摘によって、いきなり一触即発となるアニとミカサ。ここでいきなりミカサが戦闘モードに入りかける理由がよくわからないんですが…昔から反りは合わなかったと思うけど、それにしても。エレンより大事なものなんて考えたこともない、て図星をさされてアッカーマン属性のことを思いだしちゃって八つ当たり的なものもあったのかな?

しかし、周囲が慌てる中、アニの方からストップをかけてミカサに理解を示し、率直に協力を求めます。アニも変わったなあ…でも4年間も体は動かずうっすら意識ある状態で水晶に籠っていたわけだから、ずっと座禅組んでたみたいなもん?何らか悟りを啓いていてもおかしくない…のかもしれない。

 

 4 マガト

ガビを慰めようと手を伸ばしかけて躊躇し宙ぶらりんになる手を見たとき、再会して思わず抱き寄せたとき以上にガビのことを思っているんだなあ、と感じました。ペットのような可愛さではなく、相手もひとりの人間であることを認めた上で、何もしてやれない自分の無力さ、こういう事態を招いたことへの罪の意識、みたいなのを強く感じた。

ところで、イェレナによる瘡蓋はがし大会の中では、マガトがヴィリーと組んで民間人の犠牲者が多数出ることも承知の上でわざとレベリオを襲撃させ、パラディをスケープゴートにしてマーレの国際社会での地位を維持しようとしてたことについては触れられていませんでした。イェレナが勘付いてなかったとしてもおかしくはないけど…

歴史的責任を巡るジャンとの口論では、「お前達は悪魔に見える」なんて言ってましたが、ヴィリーとの密談では「私達は悪魔に違いない」って言ってた通り、言い訳しようのない行為(あれですよあれ、銀英伝のヴェスターラントみたいなもん)。これもいずれガビたちの知るところとなるのでしょうか。

  

5 イェレナ

細かい話ですが、正体を暴かれたイェレナが、皆を見渡して反撃し始めるとき、背後からにじり寄ってきて横目で自分を見ているピークの目の下の辺りに、振り返らずに片手を(撫でてるっぽく)置いて話し始める、この余裕のポーズが何かスキ。ピークちゃんもなんだか気持ちよさげだし。

この四面楚歌の情況での余裕。攫われてきたときより元気になってきてないか?そして呉越同舟のメンバーの心のわだかまりをひとつひとう棚卸し始め、それを皮肉ったジャンには特大の返礼。今回初めてイェレナをちょっと好きだと思いました(笑)

しかしまさか、普通のマーレ人だったとは…純粋で潔癖な要素もある人なので、マーレの国力は軍事力によるものだから、それに貢献しようとして軍に入隊したものの、上は無能だしエルディア人に丸投げのくせにその扱いは大量の無垢巨人を作り出したりする非人道的やり口だしで、こんなの許せん!てなってるときに(回想シーンにあったような)窮地を獣の力で救われて、ジークとならこの間違った世界を変えられるのでは、と思ったのかもしれない。そして世界を救う物語に自分を捻じ込むために出自を偽り、抑圧される側を装う…マーレ人だとジークに信頼されない、と思ったのもあるんだろうけど、それ以上にそういうキャラになりたい、という願望があったんだろうなあ。現実世界の狂信者にもありそうな気がする。ただ、そのことが物語上どういう意味を持つのか?というのがわからない。彼女が他国の出身でなくマーレ人であったということには、意外性という以上の意味があるのだろうか?

 

 6 リヴァイ

マガト&ピークとの交渉ではかなり元気に喋ってた兵長ですが、今回はハンジさん特製シチューも食べず、議論にも参加せず、ひたすら寝てます。

あまりのハズレっぷりや、白夜のときの屋根上の修羅場で重傷を負い意識不明だったサシャが不参加だったことを思い出したりして正直不安なのですが…まあ、過去のあれこれの整理は、リヴァイに関しては今ここで皆とまとめてやらない方がいいかな、という気がするので敢えて寝かしておいた、と考えたい。

他の皆の過去のわだかまりの多くは、相手によって愛する者や故郷、平穏な日常を奪われたことを許せるか(少なくとも、過去をネタに相手を攻撃することを我慢できるか)、自分が相手から奪った罪を認められるか、ということなんだけど、リヴァイの場合は少し違っている。

ジーク抹殺への拘りは単純な復讐心だけでなく、エルヴィンには死ね、新兵を死なせろと背中を押しておきながら、それと引き換えになるはずだった自分の役割を果たせず、更には降って湧いたエルヴィン蘇生のチャンスも自分から捨ててしまった、その自責の念を消化し切れずにジークに向けている部分が大きいと思う。更にはジークの言動から垣間見える人格への憤りも絡んでそうだけど

つまりリヴァイが向き合い、乗り越えるべき過去の大半は、ジークに何をしたかされたかではなく、自分が仲間に何をしたか、なのだ。

 だから今の話題には下手に参加させず、寝かしておいた。もうひとつの論点である地ならしによる虐殺を容認するか否かっていう点については、濃淡はあれ、ハンジと基本路線は同じだと思うので、それについて発言させるために起こしておく必要もないでしょうし…と思う。

が、それにしても。

前号の巨大樹の森でのハンジとのやり取りやマガトとの交渉のときのシリアスさと比べると今回の「ぐー」と寝ぐせはちょっとギャップが(汗)つまりアニとミカサの一触即発もジャンの爆発も、言い方は悪いが仲間内の「必要な儀式」に過ぎないという、言外の表明ということなんですかね…

 

7 フロックとキヨミ様

なんと、ラストページではキヨミ様を拘束したフロックが登場。今日は公開処刑(未遂)の翌日だと思うけど、鉄道使ったにしても既に武装兵の配備も終えてるなんて、ずいぶん手回しがいいな。舐めてましたゴメンね。キヨミ様を殺さず拘束している意図はまだわかりませんが、いずれにしても次号のミッションはキヨミ様救出&飛行艇奪取ですかね。フロックも調査兵団の皆には言いたいことが本当は山ほどあるはずなので、そこは次号に期待。キヨミ様はミカサに助けて欲しいし、今の情況をどう捉えているのかも早く聞いてみたいな。

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