今改めて考える、アニ・レオンハートの真の目的~『進撃の巨人』(諌山創/別冊少年マガジン)考察~

第124話でアニを覆う水晶体が「氷解」し、4年ぶりに生身のアニが姿を現しました。今後の動向が気になりますがその前提として、アニ関連の描写で度々感じていた疑問点を踏まえて彼女の真意を考えてみたいと思います。

 

 

 

1 不機嫌な戦士

エレンたちと過ごした訓練兵団時代、シニカルで醒めた態度を貫いていたアニ。それはマーレで戦士になるための訓練を受けていた子供の頃から一貫していて、常につまらなそうな顔をしています。始祖奪還計画でマガトから指名されたときは1人だけ暗い顔で俯き加減にしているし、その後のパレードでも他の3人が嬉しそうだったり誇らしげだったりする中、やはり1人だけ無表情(第95話)。

マルセルを失って撤収しようとするところをライナーに止められたときには、「何が名誉マーレ人だ!選ばれし戦士だ!」「マーレもエルディアも全部クソッたれだ!」「全員嘘っ吐きで!」とキレてます(第96話)。

つまり彼女は、ライナーたちが多かれ少なかれ信じているマーレ戦士の崇高な使命やそれに伴う名誉など、ハナから信じていない。にもかかわらず、厳しい試練を潜り抜け、自分の寿命の大半を捨てて、マーレの戦士になった。何のために?

 

2 「現実離れした理想」

訓練兵時代、エレンとの格闘訓練で、アニは自分に格闘術を叩き込んだ父のことを「私の父もあんたらと同じで…何か現実離れした理想に酔いしれてばかりいた…」と批判的に評しています(第17話)。その反面、格闘術の場面でだけはアニは活き活きとして微かな笑みを見せることさえあり、父の影響の大きさを感じさせます。アニの行動の背後には、間違いなく父の意向があります。

しかしアニは訓練兵時代から「内地志願」「憲兵団を目指す」と言っており、その理由は「助かりたいから」としか言っていません(第21話)。なのでアニの行動の背景にある父の理想とやらも宙ぶらりんのまま話が進みます。

次のヒントはアニが捕獲され、水晶に籠る直前に蘇る父との記憶。

自分が間違っていた、とアニの前に膝をついて謝り、

この世のすべてを敵に回したっていい、この世のすべてから恨まれることになっても、父さんだけはお前の味方だ。だから約束してくれ。帰ってくるって」

と懇願しています(第33話)。

ここで推測できるのは、父が「現実離れした理想」を実現するためにアニを巨人にして人類への敵対者として壁内に送り込んだこと、そして土壇場になってそれを後悔していたらしいこと。

この時点では壁の外の世界のことなどまったくわかっていないので、命の危険を負うのはもちろん、他人を殺戮しまくるという過酷な運命を娘に負わせたものの、いざとなるとやっぱり後悔してしまう父親の姿、と見え、その後の怒涛の展開で忘れてしまっていたけれど、壁外の情勢が明らかになってきた今、このセリフを読み返すと大きな違和感があります。

第一に、マーレの始祖奪還計画は、マーレにおいては大正義。失敗して逃げ帰れば非難されたり処罰されたりすることはあるかもしれないが、「この世のすべてを敵に回し」たり、「この世のすべてから恨まれる」というものではない。

第二に、マーレ戦士として活躍することや始祖奪還計画は、欺瞞とか偽善とかはあるかもしれないけど、軍の作戦行動として現実に行われていることで、「現実離れ」したものではない。

 

 だとすれば、父がアニを戦士としてパラディに送り込んだその裏には、マーレに貢献して正義を実現するとか見返りを得るとかではなく、もっと別の、隠された意図があったのではないか?その意図こそが、「現実離れした理想」だったのではないか?と考えられます。

 

3 「特殊な人」たち

他人とあまり喋りたがらないアニが、珍しく個人的な長セリフを吐く場面が2つあります。ひとつは2で触れたエレンとの格闘訓練の場面(第17話)、もうひとつは憲兵団でのマルロとの会話(第31話)です。

エレンとの会話では父とエレンを「現実離れした理想に酔いしれている」と評し、マルロとの会話では「あんたは正しい人」「特殊な人」と言う脳裡でエレンのことを思い浮かべているので、アニの中ではエレン・マルロ・父は同じ種類の人間としてカテゴライズされていると思われます(そしておそらく、反発と好感を同時に抱いている)。そういえば王政打倒編でも、ジャンがマルロをエレンと似た本物のバカだと感じる場面がありました(第59話)。

エレンとマルロに共通しているのは、現状が不当・不正な状況にあると考え、大勢に逆らうことも辞さず、正そうと本気で思っていること。

だとすると、アニの父も同様に、現状を不当なものと考え、自分が正してやる、と考えていて、尚且つその理想は大勢とは相容れない。ライナーがかつて抱いていたようなマーレ官製の理想とは全く違う「特殊な」ものです。

そして、マーレで抑圧されているエルディア人が抱く特殊なの理想と言えば、まず思い浮かぶのが――

 

エルディア復権計画。

 

パラディ島から奪った始祖をマーレに渡さず、始祖の力を背景にエルディアの主権を取り戻す(と言っても世界が黙っているはずもないので大陸中が戦争に巻き込まれる可能性も十分ある)遠大な計画。

アニが「現実離れした理想」と評したことも、「世界すべてを敵に回す、恨まれる」と父が危惧したことも、不自然ではない。また、巨人戦士としての栄誉や使命に対して醒めていたというか嫌悪していたことも、父の教えでマーレの欺瞞を知っていたからだと考えれば腑に落ちます。

 

4 レオンハート家のひみつ?

父から仕込まれたアニの格闘術は特徴的なものでした。島の住人であるエレンたちには馴染みがなかったし、ライナーたちの技とも違っていたようです。アニの父はなぜそういう特殊な技術を持っていたのでしょうか。

また、今号(124話)のラストでも印象的だったアニの指輪。棘がついてますけど武器になりそうなものではなく(せいぜい握手したときイテテッとなるぐらい?)、自傷という特殊な用途のものです。しかし他のマーレ戦士はそういう特別な小道具を持っている描写はなく、そこら辺にある刃物を使ったり、自分で噛み切ったりして自傷しています。なぜ、アニだけ??

もうひとつ、開拓民時代に壁の王に近づく方策をライナー達と検討しているときに「自分が嫁入りするとか?」と言い出すくだり(すぐ自分で否定してるけど)。このときのアニはエレンたちと同年代とすれば12歳ぐらいでしょうか。前後の発言も含めて普通の一般家庭で育った女の子の感覚とはズレがある。そういえば、訓練兵時代にケニーに尾行を気付かれて捕まりそうになったとき、「実はあなたは私のお父さん…」的なことを言い出したのも(すぐにケニーに否定されたけど)、性と血筋にまつわる話だった。

以上のことから推論すると、レオンハート家は実はかなり特殊な家系、おそらく滅びたはずの知性巨人家若しくはそれに縁の者の末裔なのではないかという気がしています。だからこそ特殊な格闘術を受け継いでおり、巨人化のための指輪を持ち、血にまつわるデリケートな話も平然とできる…なーんて飛躍し過ぎ(笑)と思いつつも更に続きます。

 (2019.12.19追記)

それと、気になった描写をもう2点ほど。

(1) ライナーがマルコの立体起動装置をアニに外させる場面(第77話)

このとき、アニがコニーを命がけで救ったことを指摘して、「お前と!お前の帰りを待つ親父が!穢れた民族と違うって言うんなら!今すぐ証明しろ!」と強いるライナーのセリフ。

単に「情が移ったわけじゃないならそれを証明しろ」だけならすんなり読めますが、それに重ねてのこのセリフ。マーレに残ったユミルの民であるライナーたちの間で民族がどうこう言うのもちょっとひっかかるし、いきなり親父にまで穢れた民族云々の話が及ぶのも違和感があったのですが、これもレオンハート家が特別な、マーレにおいて忌避される家系だったとしたらしっくりくる。

話逸れますがこの場面、ライナーもだけどベルトルトも最悪…ライナーが何と言おうと、アニを押しのけて自分でやるくらいしろよ…自分たちが蒔いたタネなんだし、仮にもアニに惚れてるんならさ…

(2) 戦槌の巨人・タイバー嬢の水晶体(第102話・第103話)

タイバー家当主ヴィリーの妹(たぶん)は戦槌の力をすべて使い果たし、人間の姿でアニと同じく水晶体に籠ってしまいました。

しかし、ライナーたち他の知性巨人たちは硬質化の能力を持っているにもかかわらず、力を使い果たし絶体絶命となったときでも水晶体に引きこもったりはしていません。この特殊能力を巨人貴族のタイバー家の令嬢とアニだけが持っているのも気になります。まあ、女型は汎用型と言われ、「叫び」に近い能力も持っているので、戦槌とも類似の能力を持っていた、ということなのかもしれませんが。え?ライナーin水晶とかじゃ画的に困るだろって?いやごもっとも…

 

いずれも牽強付会な感じはありますが、進撃は微妙にひっかかる表現が思わぬ意味を持ってたりすることもあるので(「故郷に帰る」とか、「僅かな命」「先の短い」とか)、正解がわかるまでいろいろコジツケるのも楽しみの一つ、ということで。

 

5 計画と逡巡

ここでちょっと角度を変えてジークの思惑を考えてみます。

始祖奪還は当初マルセルら4人に委ねられていました。到着早々マルセルを失った上に壁内人類が予想外に手強かったせいで、ジークたちを追加投入してもなお目的を達成できず撤退、という流れになりましたが、それはマーレやジークにしてみれば想定外の事態。

4人が作戦に成功する見込みも十分にありました。そうなっていたとしたら、始祖はマーレに連行され、誰か忠実な戦士候補生に喰われる…ことになってたんですかね…あるいは幽閉されるか。いずれにしてもクサヴァーさんが言ってたような、安楽死計画に賛同してくれる信頼できる同志に始祖を宿してもらって、それからジークが触って…なんてふうに上手く運ぶとは思えません。

でももし、4人の中にジークの協力者がいたら?

始祖奪還に成功後、島にいるうちに仲間を拘束するか懐柔するかして、マーレから来る定期船も巨人の力を使って強奪する(定期船にジーク一味が紛れ込んでいればもっと簡単)。定期船が戻らなければ島で異変が起こったとわかるので、ジークが自分が状況確認&4人の加勢に行きますと名乗りをあげ、島で始祖を手中にした協力者と合流…ということも可能です。

ジークは自分が始祖奪還計画から外されるリスクも踏まえて、戦士の中に協力者を作っておこうとしたでしょう(もちろん自分も参加できればさらに好都合ですが)。一方アニ父としては、エルディア復権計画には王家の血筋が不可欠。ジークは安楽死計画は隠してアニ父に近づき、手を結んだ。

結局パラディにはアニが派遣されることになり、アニは父とジークが課した密命を帯びて始祖奪回作戦に参加することになるのだけれど、土壇場になってアニ父は事の重大さに怖気づく。もしかすると、ジークが自分と同じエルディア復権派ではなく、裏の計画があることに気づいたかもしれません。

でももう時既に遅し。奪還した始祖をジークに渡せば恐ろしい事態がおきるけど、マーレに渡せばエルディアはマーレの抑圧から逃れるチャンスを永遠に失う。かといって今さらアニを足抜けさせることもできず、マーレにジークの計画をチクるわけにもいかず、運を天に任せて送り出すしかない。それが「俺が悪かった…」に繋がるのではないかと。

まあアニとジークは信頼関係皆無だと思うので、ジークが立てる計画としてはムリあり過ぎですが(笑)

 

6 アニの今後

アニの第一の目的は父のもとに帰ることなので、今の状況下でなりふり構わず帰還を目指す…ということがまず考えられます。しかし、帰る先のレベリオは地ならしの対象ですし、マーレのための始祖奪還という表向きとは違う、隠された目的がアニにあったとしたら、それがアニの行動に影響を与える可能性もある。

個人的には地ならしを中止させる方向で動くんじゃないかと思ってます。これまでのアニの行動はすべて無事帰還するための間接的な手段で、それ自体はまったく意味がなかった。だから常につまらなそうにしてたんだけど、これからの行動は彼女にとって意味のあるものであって欲しい。目的が達せられるにせよ、そうでないにせよ。

でもまず差し当たっては、ヒッチを人質にとりつつ4年間の空白を埋めるレクをしてもらって、そこでヒッチもアニのことを(少しは)知る…という展開をちょっと希望。

 

 

 

 

 

なーんて、棘の指輪にこれまでのもやもやした疑念がひっかかって生まれた妄想でした。でもアニにはきっと描かれてない何かがあると思うので、今後に期待です。

 

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