『進撃の巨人』(諌山創/別冊少年マガジン)第125話「夕焼け」雑感

今回は、地ならし開始後の各地・各人の状況が描写されています。以下、主な場面ごとのネタバレ感想をまとめています。 

 1 ストヘス区のヒッチ

ううっ、ヒッチ…あのいい加減だったヒッチが…被害者を気遣い、不穏な空気を察知し仲間と連携して対処する、立派な兵士に(泣)彼女が失ったものと、それからの4年間のことを思わずにいられない。

住民同士の対立の場面。物語のはじめから、壁内人類は多くの犠牲を払い続けてここまで来た。「心臓を捧げよ」も「犠牲なくして勝利はない」も、ずっと言われ続け、実践され続けてきたこと。「皆、死んだ甲斐があったな」というのはエレンがトロスト区の門を大岩でふさいだときのリコのセリフでもある。なのに、同じはずの言葉がこれほど空疎に響くのはなぜなのか。それは彼らが兵士かそうでないかの差だけではないはず。ところで、「私の家が…」はもしかしてマリア奪還作戦のときのコニーの名セリフのセルフオマージュなんだろうか。不謹慎ながら思わず笑ってしまった…

 

2 アニとヒッチ

ヒッチがアニを投げ飛ばすとは!成長したなあ…と思ったけど、アニは相当体力が落ちているらしい。逃亡する場面でも、馬に乗れないらしくヒッチの後ろに座ってる。4年間同じ姿勢で固まってたしね…

アニの自分語りによって彼女の意外な出自、そして父との関係が明らかになります。いやー思いっきり予想を外してました(笑) アニのシニカルな態度の背景にあったのはこの生い立ちだったんですね…しかし足を不自由にされてアニを憎むどころか喜ぶなんて、レオンハートの目的は、本当に「アニを戦士にして自分が豊かになる」という利己的な動機だったんだろうか?ちょっとまだ疑問が残る。

アニが自分の罪を認め、それでも父のもとに帰るためならまた同じことをやる、と言い、ヒッチがその言葉を静かに受け止める場面。ものわかりが良すぎるとも言えるけど、4年間アニの水晶体と過ごした冷却期間があったのと、この異様な状況のせいでかえって冷静になれたということなのかな。それは赦しとか和解とかではなく「理解」に過ぎないけど、でも、それが始まり。ヒッチも成長し過ぎてクビが心配だよ…

たぶん2人は街を出るところで別れてアニは波止場のある南へ向かうのかでしょうが、無事辿り着けるのか?

 

3 キースと訓練兵たち

前回に引き続き超カッケー!!キース教官。自分が粛清の対象となることを予測し、訓練兵たちを巻き込まないために、それを甘んじて受け容れる覚悟です。

そして、今後の展開についても重要な示唆。キースはイェーガー派がしばらく実権を握るが、いずれ暴走し、その支配に綻びが生じると予測している。「いつか立ち上がるべき日が来る」という予言は必ず成就されるでしょう。キースがその日を迎えられるかどうかは別として。処刑されずに生き延びて欲しいけど、人望があればあるほどフロックにとっては危険な存在になってしまうんだよな。

 

4 アルミンとミカサ

完全にテンパッてるアルミンと、エレンに突き放され、上官や同僚など周りの人々もどんどん頼れなくなってふらふらしているミカサ。

アルミンの中にはエレンをもうどうしようもないという絶望、憧れ続けてきた外の広い世界が消えてしまうのだという失望がある。そしてなまじ頭が良いだけに、様々な不安要素に気づいてしまい、そのどれもが対処困難なのでパニックに陥って、とりあえず一番手近な「コニー阻止」に向かっている感じ。現実逃避もあるのかもしれない。だけどもし追いつけたとしても、絶対そんなこと言っちゃだめだよアルミン…

口論の最後に言った、「今、答えが出た」という言葉。あまり口には出さなかったけど、「エルヴィン団長でなく自分で良かったのか?」というのはアルミンの中ではずっと繰り返されてきた問いだったのでしょう。そして答えは、「僕じゃなかった」。そういえば、こういう自己否定はエレンも王政打倒編で経験しています。ヒストリアの叱咤と仲間の危機が、そこからエレンを脱出させたけど、アルミンの場合はどうなるのでしょうか。

一方のミカサ。アルミンに怒鳴られるなんて初めての経験だったんじゃなかろうか。でもアルミンがキレるのもわかる。海以降、普通の人間らしい感情を見せるようになった分、ミカサは心や行動を貫く芯(=エレンが全て)が弱まり、特にレストラン会談でエレンに突き放されてからはそれが顕著。仕方がない部分もあるんだけど、ミカサも早くここから脱出して欲しい。マフラーが消えたことが何らかのカギになるのか?

5 ガビとブラウス家の別れ

ガビがカヤに本当の名前を告げるシーンは、ヒストリアと104期ユミルのそれを彷彿とさせますが、その後のカヤの「ガビって変」。笑いながらもジンとしてしまう。しかし、抱き合ったときのカヤの「さよならガビ…」は何だか不安。再会できますように。

6 フロック、独壇場

 戦闘が終わった途端に活き活きとしてその場を牛耳り始めるフロック。うーんこいつって、陰謀には長けているけど、囮役だったマリア奪還戦はともかく、レベリオ襲撃では民間居住地を焼いただけ、手強い敵は結局リヴァイと元新リヴァイ班が対応したし飛行船での脱出計画を立てたのはアルミンだし、(彼だけのせいではないが)飛行船で気勢をあげて騒いだためにガビたちの侵入に気づくのが遅れサシャの死の遠因になり、ジークお迎え業務でも瀕死のリヴァイを殺すことも拘束することもできずハンジともども逃げられ、それでも新品のジークが現れたために結果オーライ。マーレの奇襲~兵団無垢の暴走の間もどっかで死にかけて寝てましたとか………そうか、これがザックレーが言ってた「イヤ…もう好きだな」という気持ちなのか!

それはともかく、私はマリア奪還戦のときの特攻前、屋根の上の修羅場、帰還後の式典のとき、あの頃のフロックの本音の吐露はどれも凄く好きなんだけど、今の彼が自ら悪魔になることで、あのときの仲間の死に報いようと苦闘しているようには見えないんですよね。手にした力に酔い、自分が生き残ったのは自分がこういう特別な役割を果たすためだったんだ、という充実感に溺れているように見える。

怒りをむき出しにした義勇兵をためらいなく射殺したときのフロックのセリフは、マリア奪還作戦の際にジークが無駄な特攻を繰り返す調査兵団に向けた言葉を彷彿とさせます。そこに共通するのは力を持つ者が持たざる者の誇りを無価値なものと軽んじる、強者の驕りだ。

そして極め付き、ジャンへのねぎらいの言葉。指揮官としての能力や経験はジャンの方が上だし、調査兵団の古株でエレンとも、旧体制幹部のリヴァイ・ハンジとも結びつきが強い。フロックが今後も主導的な地位を保つには目障りな人間です。その彼に対してフロックは甘言を弄して前線から、責任から退かせようとしている。

島内は大混乱に陥り、巨人戦士を始めマーレの残党も潜んでいる、これから新秩序を打ち立てていかなくちゃならない、本来はこれから一緒に戦ってくれというべきところを、あの薄ら笑いで肩の荷下ろしてやろうとするのは、有能なライバルを排除しようとする意識的あるいは無意識の言動なのではないか。

昔のジャンに戻れというフロック。しかしその言葉は自分に跳ね返って来ないのか?時流に流されて調子に乗り、いざとなれば死を前に尻込みし、勘違いしていたことをひたすら後悔するかつてのフロックに、戻ることないのか―――? 

7 人さらいコニー

コニーはファルコを拘束せず、病院へ連れていくと騙してラガコ村まで連れていくつもりです。有難いと思いつつも、この方角でいいのかと違和感を口にするファルコ。これでいいんだと言いくるめるコニー。これってまさに、絵に描いたような人さらいやんけ…

2人乗っているせいで馬もかなりゆっくりなので、アルミンとガビが急げば追いつける可能性もあるのか?でもコニーには自分で思い止まって欲しい。「兵士」というキーワードも出てきているし、ファルコも欠落した記憶やコニーのことも思い出しそうなので、誰かに止められるのではなく、2人の間で決着して欲しいです。 

8 もしかして、トップ相見ゆ?

状況打開の手立てもないまま敵地に取り残されても冷静さを保ち、最後までみっともなくあがく、と言い切るマガト。恰好いい ♪ ピークちゃんが信頼してついていくのもわかります。

その彼らに遠くから声をかけるパラディ兵士。寝ているリヴァイを連れたハンジです(ようやく、やっと!再登場。長かった…)。

へ、兵長…丸顔なせいで寝てると子供みたい…ギャングではないただのちびっ子に見えかねません(泣)というのはおいといて。濡れネズミではないし、リヴァイも一通り手当されているし馬もいるので、川から上がってどこか手当のできる場所に避難していたのでしょう。ハンジが元々どこへ向かっていたのか、マガトらに声をかけた意図は何なのか。これまでの戦闘や情報収集でお互いが何者かはわかっているでしょうが、何か交渉事を持ち掛けるつもりなのか。まさか車力の走力でどこかに送ってもらうとか?しかしギブアンドテイクできる材料ってあったっけ?

それにしてもこのハンジさん、最近のプレッシャーで圧し潰されそうな真面目さからちょっと変わっていて、かつての軽口、テンションの高さが少し戻っているような感じもする。兵団秩序が崩壊して団長という立場から実質的に解放されたことも影響しているのかな。

そして依然として意識のないリヴァイはいつ目を覚ますのか?今の状況をどうとらえ、これからどう行動するのか?次号に期待。

  

 それと、復活にはしばらくかかるだろうけどいつか必ず、死んだとか嘘こいたフロックに目にもの見せてやってくれ!!

 

9 サブタイトル「夕焼け」

数珠つなぎのようになった各場面が目まぐるしく展開していった今号。みんなバラバラでしっちゃかめっちゃかになってて何とも言えない終末感を醸し出しています。そしてそれらを包む夕暮れの空…これから始まるラグナロク(神々の黄昏)を暗示するサブタイトルでもあるんだけどそれ以上に、やるせない喪失感と来たるべき夜への不安を感じさせます。ただ同時に、小さな希望の芽も、随所にある。来月が待ち遠しい。

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