The Chronicles of Tevenar Series (Angela Holder)

英語多読の素材として、何かないかな~?と探して偶然Amazonで見つけたのですが、凄~く面白かった!

女神Motherの力を操るwizardたちの主導のもと、鎖国によって千年にわたり平和で平等な社会を築いてきたTevenar島と、Motherの力を失い独自の発展を遂げた大陸の強力な専制国家の再会と争乱を描いたエピックファンジーです。

大きな時代の変化の中で、好奇心旺盛で才気煥発だが飽きっぽく余計なことをやらかしてばかりの主人公Josiah少年、優秀かつ熱意に満ち(かつ黒髪長髪容姿端麗w)、将来を嘱望される若きwizardでありながらその実、深いトラウマを抱えていて、人間的には未熟な面を持つElkan、孤立したDV家庭で育ち、聡明さと頑固さ、狡猾さと勇敢さを併せ持った嵐のような少女Nirelら、さまざまな出自と立場の人々が迷い、過ちを犯しながら自分の道を選び取っていく姿が描かれます。特に、ダークヒロインとも呼ぶべきNirelは印象深い存在。必要とあらば友人だろうが好意を持ってる相手だろうが平然と騙し裏切るヤベー奴ですが、自分自身であることを絶対に捨てない心の強さは登場人物たちの中で一番の傑物であるとも言える。ヒロインの行動として期待されることは殆どしてくれず、凡そ彼女の本質に合ってないものにしがみつく執着心には途中何度も首を捻り「早く眼を覚まして~」と思わせられるのですが、それが最後、あっと驚く方向に鮮やかに繋がっていく。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、彼女の在り方が作品テーマの一翼を担っていることは間違いないでしょう。

 

 

1 概要

Tevenar創建にまつわる前日譚なども出ているようですが、メインストーリーは全4巻。

1:The Fuller's Apprentice

2:The Law of Isolation

3:Beyond the Boudary Stones

4:The Wizard War

Tevenar島内が舞台となる1巻と、大陸の強国Ramunnaが登場して、タイトルからも推察されるようにTevenarとの往来の開始、そして戦争へと至る2巻以降はだいぶ雰囲気や構成が異なる。

1巻はフェルト工場の見習いだった Josiah がwizardの Elkan(とロバのSar)に命を救われ、Elkanの旅に同行する1年間をJosiah視点で描いていて、Tevenar社会やwizardのあり方を彼の眼を通して紹介していく意味合いが大きい。Elkanの旅はwizardが常住しない僻地を巡って往診&巡回裁判をするのが第一の目的なので、訪れた土地土地で様々な課題を解決したり解決できなかったりしては、また次を目指すの繰り返しの中で、wizardの力をふるって物事を解決する爽快さや達成感と同様に、その限界と苦悩が描かれる。Josiah自身はwizardではなく、なれる見込みもないので、いっそうのやるせなさ、もどかしさを味わいます。

一方、舞台が広がる2巻以降は大陸の人々を含めた多人数視点で同時並行的に描かれ、息をつく間もなく進んでいきます。Ramunnaは世襲の女首長が支配する専制国家で、彼女はある理由からwizardを熱心に招聘するのですが、wizardを敵視する勢力の暗躍によってTevenarはRamunnaの侵攻を受けることになります。大陸の各勢力の指導者たちはいずれも非情で陰謀に長け、ピュアなTevenarを追い詰めていきますが、彼らは彼らの宗教的信条や政治的立場に基づいて行動しており、印象深いキャラクターも多い(特にFaithfulのリーダーElder Davon…最初、またもったいぶった狂信者が出てきやがったとか思ってましたゴメンナサイ)

  また、1巻では単なる序章的エピソードとして通り過ぎていたあれこれが、4巻では一つに収斂してくるのも見どころ。

 

2 魔法とwizard

 魔法のあり方はなかなかユニークで、ストーリー展開の仕掛けとして働くだけでなくテーマに直結してもいます。

この世界における魔法の源は女神Motherの力なわけですが、

(1) 単独では行使できない

まず第一にwizardは、Motherが選んだfamiliarと呼ばれる動物(種類はロバだったり犬だったり野生動物だったりいろいろ)とbondしてペアになり、両者が接触した状態でなければ力を発揮できません。もちろんこれは大きな弱点で、このために彼らは幾度も危機に陥ります。なのになんでこんな仕組みになっているかというと、かつてwizardたちがMotherの力を悪用して力を剥奪され、Gurionの懇願によって再度Motherが力を戻してくれた際、二度と悪用されることがないよう、ペアでないと力を発揮できないように仕組みを変更した、という経緯があるのです(Gurionはやがて賛同者と共に大陸から逃れ、Tevenarを創建する)。

自由意志によって力を悪用するおそれのあるwizardに対し、動物であるfamiliarはMotherの意志に反することは絶対にできず、無理強いしようとすればfamiliar側からbondを破棄されてしまう。いわば安全装置の役割を果たしています(この辺りには更に秘密がある)。

自由意志がないと言ってもfamiliarたちは人間の言葉もわかりますし判断力もあって、ペアになっているwizardとはテレパシーで会話もできます(複数の視点で語られる2巻以降は、それぞれのペアで交わされる会話によって描き出されるfamiliarたちの個性も楽しい。個人的にはオオヤマネコ♀のTobiが好き)。ある行為がMotherの意志に沿うことなのか反することなのかを巡ってwizardがfamiliarを説得したり、逆に判断を求めて「それはfree will に委ねられてる」と突っ返されることもあり、物語が進み、事態が深刻になればなるほど、何をすべきか何をすべきでないか、広い視野で考え、しかし自分で決定することの重要さが浮き彫りにされてきます。

(2) 力の種類と限界

wizardの力は

①病気や怪我の治癒(植物の病害なども)

②離れた場所や過去の出来事の再現(球体を浮かび上がらせて、その中に音声付きで映像を映し出す)

➂離れたところの物体を動かす(空気など、目に見えないものも)

 

の3つ。といっても治癒は基本的に患者がもともと持っている回復力を促進したり、体内の阻害要因を取り除いたりするもののようで、切断された手足を再生したり、先天的に欠けている機能を作り出したりすることはできない。

また、②は対象との距離や時間が離れるに従って困難になるし、➂も距離が離れるほど、動かすのが難しい物ほど、困難になる。

また、力を使えば体力を消耗して、wizardもfamiliarも食べて休んで眠らなければ回復しないので(本当に限界を超えて無理すると死ぬ)、一度に診れる患者の数などにも限りがあります。

これらの制約や限界をどう乗り越えて目的を達成するかが見どころでもあるわけですが、なかにはどう頑張っても期待に応えられなかったったり、どちらを取るかという苦渋の決断を迫られることもあり、それは人々とwizardたちの間、あるいはwizard自身の心にしこりとして残ってしまうこともしばしば。

しかし後半になると大陸で発達していた魔法抜きの新技術や治療法を持つ人々と巡り合い、彼らと協力することで、どちらか片方だけでは考えることもなかった新たな可能性も拓けてきます。このときのJosiahはもちろんですが、Josiahに対して科学の師となる学者GevanやクールなヒーラーNaliniらの抑えきれないワクテカっぷりも微笑ましい。

 

(3) wizardを巡る宗教的対立

第三に、Tevenarの外では魔法もwizardも千年前に失われており、今やwizardは古文書に登場するだけの伝説的な存在となっています。このため、wizardの存在を信じる者、否定はしないけど夢物語と思っている者、真のwizardは千年前に絶えていて、獣とペアでやってる奴らは巧妙な偽物、悪魔の所業だと考える者、Motherの実在そのものを信じない者、Motherは人々を堕落させるものだとして別の神を信奉する者など、様々な宗教的立場があり、それが政治権力や差別構造とも絡みあって不穏な緊張関係を生んでいました。

そこに実在のwizardが投下されることで幾多の駆け引きや陰謀が生まれ、Tevenarとしてはそれをどう切り抜け事態を打破していくか、大陸の人々は自分が何を根拠に何を信じるべきか、迷い悩み、選択していくことになります。

 

3  Tevenar 社会

最後に、社会システム等について。

各種の職業ギルドが発達していて生産・販売はほぼすべてギルドを通じて行われます。

住民は一定年齢に達するとギルドにapprenticeとして所属し、journeyman→master とステップアップしていく。マスターになるには課題をクリアする必要があり、1巻の旅はElkanがマスターになるための課題でした。

なお、ギルドの選択は個人の自由に委ねられていて、親の職業や性別による制限はなく、夫婦や家族が異なるギルドに所属することも珍しくありません(wizardだけはMotherに選ばれた者しかなれない)。Josiahも両親はpotterですが、羊毛を叩いてフェルト生地を作る機械の仕組みに惹かれてfullerを選びました(ちなみにwizardには選ばれてません)。ところが仕事自体は単調だったのですっかり飽きてしまった…というところから物語が始まります。

どのギルドも敬意をもって扱われていますが、なかでもwizardギルドは指導的立場にあり、治癒のほか各ギルドの支援や訴訟なども扱い、島全体に関わる重要事項の決定権はwizardギルドのギルドマスターにあります。

千年間平和だったので軍隊はなく、武器を扱えるのも警備を担当するwatcherギルドくらい。犯罪者の追跡・拘束などはwizardとwatcherが協力して行っています。もちろんまともにやり合えば正規の軍隊の敵ではありません。

平和で貧富の差も比較的小さく、職業も世襲ではなく流動性があるので身分や階級の固定もない。女性差別もなく、watcherやsailor、builderなどのマスターとして普通に登場し普通に仕事しています。性に関しても寛容ですし子どもの保護にも手厚く、多くの面で非常にポリティカリーコレクトな社会と言えるでしょう。しかし、そうであるが故に、強権的な大陸勢力にとっては、Tevenarは毒なのです。

 

 

英語の勉強のためとか考えずに楽しめた本でした。どれもこれくらい面白ければいいんだけどな…

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