妖怪探偵・百目 1 朱塗の街(上田早夕里/光文社文庫)

十数年前に大量の妖怪が突然出現し、今では人間と妖怪が共存する奇妙な街。元脳科学者の相良邦雄は、ある事件をきっかけに外の世界で居場所を失ってこの街に住み着き、絶世の美貌と体中を覆う百の目(普段は通常の2つ以外はちゃんと隠している)を持つ妖怪・百目の下で働いている。見通せぬもののない百目の生業は失せもの探しの「探し屋」。人間世界のことばでいえば「探偵業」。タイトルの「妖怪探偵」はそこからきているようです。つまり百目はいわゆる「名探偵」という存在ではなく、従って本作にもミステリ要素はない。

相良は給料を貰って部下としてこき使われると同時に、しばしば生じる妖怪絡みのトラブル解決(もちろん「探し屋」助手としての仕事関連のトラブルも含まれる)の助力への代償として百目に寿命を自分の吸わせる、という二重のギブアンドテイクの関係を結んでいた。ときに人間から、ときに妖怪から持ち込まれる様々な依頼に、クールな美貌の妖怪&過去に取り返しのつかない過ちを犯した結果、人生捨ててる悩み多き青年科学者コンビが挑む短編集…なのですが、シリーズものの第1冊ということで、やがて訪れるというカタストロフの予言、妖怪を滅し続ける強力な「拝み屋」播磨遼太郎、テクノロジーの力によって妖怪を駆逐・若しくは隷属させようとする勢力の存在など、シリーズとしての伏線も散りばめられている。

妖怪酒場の頼もしいマスター牛鬼、自分の仕事がイヤでたまらない妖怪対策課(正式名称は県警生活環境課第5係)の忌島刑事、我儘で傲慢だが一途な美青年かまいたち風鎌などキャラクターにも魅力があるし、百目が全身の目を開くところに代表される、怪異そのものの描写もイイ。

物語としては、ロボットを愛したかまいたちが惹き起こした事件を描いた「炎風」が秀逸。人間と妖怪、人間とロボットという取り合わせは山ほどあるが、人間をすっ飛ばして妖怪とロボットの組み合わせにしているところが斬新。しかし読み進めるうちにそれが単に目新しさを狙った入れ替えではなく、妖怪と人間、ロボットと人間の差異を浮き彫りにするものであることに気づく。ラストも妖怪の持つ特性ゆえに、異種間恋愛モノにありがちな悲劇に収まらない結末となっている。そしてそれは、たった一度の短い生に良くも悪くも縛られる人間という存在を映し出す鏡でもあるのだ。

 

ところで、「寿命(の一部)と引き換えね💛」でまっさきに頭に浮かんだのが『恐怖新聞』(つのだじろう)でした。と言っても、ほぼ選択の余地のない強制で1部100日という固定相場だった恐怖新聞に対してこっちは頼むかどうかは相良君に決定権があるし、分量もその都度交渉してるから自由度は高いし、何と言っても相方がポルターガイストと絶世の美女・百目で、吸われるのも甘美な快感を伴う、というのじゃ違い過ぎますが。

 

表紙を見ると一瞬ラノベか?と危惧してしまいますがそんなことはなく、シリアスとコメディの塩梅も私には丁度良く感じられました。

半分人生捨ててる相良が生への執着を取り戻すことがあるのか、拝み屋播磨はなぜ執拗に妖怪を追うのか、近いうちに人間を襲うとんでもない未来とは何なのか、そして1巻ではほとんど明かされることのない百目の内面は?続きが楽しみなシリーズ(と思ったら、全3巻なんですね。どういう展開になるんだろうか。早く読まなくては…)。

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