呪術廻戦ネタバレ感想 第149話「葦を啣む 弐」

十分予想できた展開であるはずなのに、はずなのに…いざ目の前に出されると、やはり予想を超えていた…

 

同じ天与呪縛のフィジカルギフテッドと言われながら、パパ黒こと伏黒甚爾と比べると一般人並みの呪力があるためか、剥奪された術式のレベルのせいなのか、力量的には劣っていた真希さん。絶対にパワーアップイベントがあるはずだと思ってたし、公式ファンブックでも一般人並みの呪力をフィジカルで補うという考え方から「甚爾を目の当たりにして、いかに何を捨てるかって考え方にシフトしていく」と明記されていたので、「捨てるとしたらやっぱ呪力だよな~でも自発的に捨てれるんだろか??」などと呑気に考えていた私。

 

 

確かに呪力がなくなるという点ではその通りだったけど、自らの選択として捨てるというのではなく消失であり、しかも真依を失うこととセットになっていたのだった…

もちろん真依の死それ自体は(悲しいけど)想定の範囲内ではあった。

だけどまさかそこに、「大事な人を失うことでブーストがかかる」とか「甘さを捨てる」とかいうありがちな精神論ではなくて、実際に、現実的な意味で、真依の存在が真希のストッパーになっていた、という残酷な事実が潜んでいたとは。

 

 

生得領域らしき浜辺で最後に二人が交わす会話の中で、真依は呪術における双子の不利について語ります。

一卵性双生児は呪術的には同一人物であると見なされるが故に、真希の強さへの希求も努力も、術式を持たないことも、真依の存在によって希釈されてしまう。これについて真依は「随分前からわかってた」と言っていますが真希の方は知らなかったようです。

ここで思い出されるのが、5巻の姉妹対決。真希が禪院家を出ていく場面の回想では直毘人が「真依にも試練を与える」と言ってたり、真希に敗れた真依が、自分は呪術師なんかになりたくなかったのに、真希が頑張るから自分も頑張らざるを得なかった、と愚痴ってる。

このくだりを読んだときは、なんで真依まで?禪院家の嫌がらせ?と違和感に首を捻りつつもスルーしてしまったのですが、そういうことだったんですね…自分の努力、自分の怠惰がもろに真希に影響するから、真依もいやいやながら頑張って呪術師を目指すしかなかった。でも結局いやいやだから、脚の引っ張り具合が緩和されるだけ。

直毘人はこの双子のからくりを知っていたので真依にも試練を与えると言ったのでしょうし、真希は知らなかったから真依には関係ないと答えた。真依の方はおそらく、直毘人から「試練」を与えられる際に、ちゃんとやらないと真希の努力が無駄になるとか言われて、そこから突き詰めて考えていって、ああいう結論に達したんじゃないかと思います。

お姉ちゃん人質に取られて尻たたかれてるようなもんですね…しかも努力したところで周囲が認めるほどの才能があるわけでもなく、親からは疎んじられ、家中では軽んじられることに変わりはない。どんなにか辛かったことか…そういう意味では、京都校で過ごした1年半は、任務山積・怪異てんこ盛りではあったかもしれないけど、仲間(東堂は置いとくとして)や指導者にも恵まれ、真依にとって唯一やすらぎを感じられた時間だったかもしれません。

 

 

真依が死ぬことによって、これまで真希が持っていると見なされていた真依の構築術式が消えてはじめて、真希は「術式ナシ」扱いになる。これはわかりやすいのですが、もうひとつあるのは呪力の問題。

真希には一般人程度の呪力があるわけですが、真依は「私が持っていってあげる」という表現をしている。生得領域に来る前の人工呼吸シーンは呪力を吸い取る行為のようにも見え(そしてもちろん恋愛感情を秘めたキスをも暗示してもいて、三重の意味が込められてると思う)真希の呪力も真依が引き取ったということになりそうです……が、どうやって??という疑問は残ります。

今ある呪力は双子パワーで吸い取ったとしても、生きてる限り新たに呪力は発生するわけだから、将来にわたって呪力をなくさせることはできないのでは??と悩んでいるうちにふと思い出したのが、

 

 

萩尾望都の傑作短編『半神』。(以下『半神』のネタバレ含みます。)

 

 

 

 

 

 

 

 

『半神』のユージ―とユーシーは一卵性双生児なのだけど、腰の辺りでくっついていて血液は両方を循環している。主人公であるユージ―の身体が作った養分は、美しいけれど体力知力共に赤ん坊のような妹ユーシー(内臓の機能が悪くて自分で養分を作れない)にも巡り、吸い取られてしまうため、ユージ―の方はやつれていつもパサパサ…そして成長するにつれ2人は…というユージ―の葛藤を描いた作品なのですが、

もしかすると真希真依の呪力も似たような仕組みで、真希の呪力は、真依が生み出したものが流れ込んでいるのではないだろうか。何しろ(宿儺&虎杖と違って)肉体は別々なのに、同じ生得領域の中に2人して存在できるのだ。真依が生み出した呪力が生得領域を通じて真希の方に還流しててもおかしくはない。

もしそうだとすると供給源の真依が死ねば真希の呪力は将来にわたって消滅することになるので、説明としてはスッキリするように思います。

 

 

ともあれ、真依と共に術式・呪力が消滅することで、不完全だった真希の天与呪縛が完成する。

タイトルの「葦を啣む」は中国の古典『淮南子』にある「葦を啣む雁」(遠く海を渡る前に途中でとまって翼を休めるために、枯れた葦をくわえて飛び立つという故事。転じて用意が良いこと、準備万端整ったことの喩え)から来ているようです。

生得領域で渡されたのは葦、現実世界に帰ればそれは真依が最後の力を振り絞って構築した呪具。そして真希から邪魔なものをすべて取り去って、準備万端…いやそりゃそうだけどさあ…タイトルまで辛い。

 

 

真依が逆向きに真希の頭を抱えて口を開かせ、最悪とつぶやきながら唇を近づけていくシーンにほのかに漂うエロス。浜辺で目覚めたときの真希の見開いた瞳の美しさ。いろいろヤバすぎる

そして現実世界に戻ったときの、真依の虚ろな瞳と真希の涙。胎児のように丸く縮こまった二人の姿。このとき双子はもう一度生まれ直したことを暗示してるようにも見える。今度は、片割れは死産で。「すべてを壊して」という呪いの言葉を残して。

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