ちょっと遠出をした先で、何の気なしに入ってみた野草園。
秋も深まり少し寂しい植え込みの中、ひときわ目を惹く鮮やかな青紫。手元のリーフレットを見ずともわかる、これこそが
かの有名な猛毒、トリカブトか…!
全身にアルカロイドの強い毒性を持ち、現実の事件事故薬用はもちろんフィクションでも狂言からミステリまで幅広く登場するトリカブト。
名前の由来は花の形が烏帽子に似ているから「鳥兜」だそうですが、私が真っ先に思い出したのは青池保子の『ケルン市警オド』や『修道士ファルコ』に登場する修道士のフード。英名はmonkshood(修道士の頭巾)ですからさもありなん、ですね。
さらにはこの猛毒の花に蜜を吸いに来る虫たちも(たぶんこのスレンダーな御方はコシボソハナアブの一種だと思う。素晴らしいプロポーション ♪ )。
トリカブトは人間にとっては全身(特に根っこ)が猛毒で、花蜜も例外ではないのですが、昆虫にはその神経毒が効かず、ハチやアブは普通に蜜を吸いに来る。そうじゃないと花粉運んでもらえませんし…
『ケルン市警オド』2巻で扱われるベルガー家事件は、このギャップを利用したエピソードになっているのです。
少し離れたところにはこれ。
トリカブトの碑が立っているけど、こちらは食用にもなるニリンソウ。春に白い花が咲く。花びら5枚くらいの普通の形の可憐な花だし、花期も春と秋で違うので花が咲いていれば間違えづらいが、葉はよく似ていて、しばしば間違われて事故になることもあるらしい。
『ゴールデンカムイ』7巻(野田サトル)でも、ニリンソウが底をついたことを嘆くアシリパさんに、ニリンソウありますよ摘んでおいたんですよ ♪ と杉元が差し出したのが実は…という場面がある。ここに至る前の序盤から、アシリパさん達アイヌがトリカブトの毒を塗った矢を狩猟で使っていることや、ニリンソウを入れた鍋料理の美味しさが何度も描写されているので、この場面のヒヤヒヤな危なっかしさが余計に際立つ。そしてもちろん、まだまだ甘い初心者・杉元が間違って採ってきたトリカブトは、アシリパさんのサバイバル技術によって、差し迫った危機脱出のために無駄なく使われることになる…
ニリンソウの花も見たことないから見てみたい(&食べてみたい)けど、オドが見つけたような大群生というのも、一度見てみたいな。猛毒を持つ修道僧のフードが一面を埋め尽くし、風に頷いている…どんなにか美しく、恐ろしい光景だろうか。