ケルン市警オド(青池保子/秋田書店プリンセスコミックス)

去年、いつも行かない本屋で偶然1巻を見つけてから、ずっと待っていた2巻がついに発売!!

『修道士ファルコ』(秋田書店)のスピンオフ作品です(ファルコ自体も14世紀スペインを舞台にした『アルカサル―王城』のスピンオフだから、スピンオフのスピンオフということになる)。

『修道士ファルコ』は14世紀ドイツの大修道院が主な舞台ですが、こちらは同時代のドイツでも自由都市ケルンが舞台。ファルコシリーズでは主人公ファルコの先輩修道士であるオド(オドアケル・ショルツ)の俗世時代、ケルン市の若き治安役人としての活躍を描いたもの。

1巻ではケルン随一の鉄鉱商フェルベルク家の当主ゲオルグの依頼を受け、世間から隔絶した山の中の修道院(ファルコの修道院とはもちろん別)に潜入したオドですが、今回の事件はケルン市内で発生します。

 

 

街はずれでおきた貧しい少年の変死事件。何か悪い物を誤って食べたのか?医師は事故と判断するが、死の状況に不審を抱いたオドは、少年が侵入していたと見られる有力貴族ベルガ―の農園に目をつける。

農園の番人に開門を拒絶されたオドは、当主ベルガ―から調査許可をもらうため、やむなく市庁舎のパーティに顔を出すが、傲岸不遜なベルガ―は、新興貴族に対しては郎党を使って嫌がらせ三昧の嫌われ者、家族に対してさえ、前妻はずっと以前に自殺に追い込まれ、残された前妻の子、後妻、後妻との間の子は揃って暗い顔で耐え忍ぶのみという横暴ぶり。農園の話を聞いて取りもってやろうとしたゲオルグ様すら完全無視。調査許可どころか話かける糸口もなく、そうこうしているうちにベルガ―が新興貴族に嫌がらせを仕掛けたことからベルガ―の郎党が刺される傷害事件にまで発展してしまう。

これでは許可を貰うなど到底無理だと単身ベルガ―の農園に潜入したオドは意外な物を発見し、山の僧院で出会った修道士ペトルスに紹介された修道士カイの助力を得て真相解明に乗り出す。ところがベルガ―家では、軽傷だったはずの傷害事件の被害者が急死し、事態はますます紛糾していく。果たして少年の死、そして郎党の死の真相は?背後に潜むのは何なのか?

 

 

いやーこの安定の面白さ!今回も快調です。

謎のメインであるベルガ―家に渦巻く愛憎と事件の顛末という本筋の骨太な面白さ。加えて、主人公オドの活躍で事件が解決した後に残る、オドの知らない、手の届かない一面が残るのは1巻と共通で、その一筋縄ではいかない感じが作品世界の広がりや複雑さを感じさせる。1巻もそうですが、これだけの話が発端から結末までコミックス1巻に収まってるのがまた凄い。

登場人物たちは、2巻の主役とも言える、当主の横暴を耐え忍ぶベルガ―家の人々のシリアスさに対して、市長や警視や部下のフリート君、医師のトール先生と名無しの助手など、レギュラー陣にはクスッとしてしまうようなお茶目さがあって対照的。オド自身も有能で時として少佐(『エロイカより愛をこめて』)っぽさを漂わせることもありますが、ずっと素直で可愛げがある感じ。

悪役のベルガ―も、最悪な人間ではあるのですが、侍医とのやり取りでの掌返しや市長との会見での「お前が言うな」的恩着せがましさにはアラゴン王(『アルカサル―王城』)を思い出して思わず笑ってしまいました(中世的な人物ということか?)

 

 

しかしそういうシリアスな愛憎劇やコミカルな言動の一方で、身分や財力による人間の扱いの違いが厳然とあることは所々に示されていて、それがいずれ「修道士オド」に繋がっていくのだろうなと予感させる。

ただ……市長やゼンフト警視もゲオルグ様も好きなので、辛い終わり方にはなって欲しくないなあ。修道士ファルコでオドと再会したフリート君は全然屈託ない様子だったから、ケルン市警に裏切られて失望した、という感じではないのかな。それならいいのだけど。ああ、それにしても3巻が待ち遠しい。

 

 

ともあれ、『修道士ファルコ』ともども、おススメの作品です。

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