ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら(阿部謹也訳/岩波文庫)

腹を抱えて笑えるとんち話集みたいなイメージで読み始めたのですが、だいぶ違ってた(笑)

 

 

出生時に3度洗礼を受けたティル・オイレンシュピーゲルの放浪と「いたずら」に満ち満ちた人生を描く。500年ほど前のドイツで成立した作品で、ヘルマン・ボーテという徴税書記が原著者であるらしい。

構成としては短いエピソードを連ねた出生から死亡・埋葬に至るまでの一代記で、盗賊騎士の従者だった父を早くに失い、生来のいたずら好きな性格も災いして「まともな」道を外れて放浪生活を始めたティルが、あるときは経歴詐称の流れの職人として、あるときは貴族の道化として、あるときはさすらいのいたずら者(追剥や盗賊はやらないので、ならず者とは呼びにくい)として、貴族や司祭から、奉公先の親方や組合の偉いさん、通りすがりの農夫、盲人や病人、あらゆる人々を騙し、からかい、悪ふざけを続け、死に当たってもひと悶着おこしたあげく、ティルらしいありきたりでないやり方で葬られるまでを描いている。

純粋に読み物としてはあまり好きになれない…にやりとさせられるような頓智というかひねりの効いたいたずらは少ないし、それを狙って書いてるんだろうけど、生理的に受け付けがたい「うげげ」って話が多過ぎるのと、やってることもなんか陰湿な感じがしてしまうのだ。ティルのいたずらというのは、糞喰らえな世の中に文字通り糞喰らわせようとするもの。相手というか「こんな世の中こんな連中」に対する憎悪が根底にあり、屈辱や損害を与えたることが目的になってることが多くて、相手にとっては到底笑って許せるものではない。相手も悪い場合も多いのですが、仕返しも9割方は過剰反応というか10倍返しくらいになってるし。

ただ、ティルの埋葬やあとがきにあった原著者のエピソードを読むと、ただ下品で陰湿だから嫌い、とも言い切れない、辛い余韻が残る。たぶん、当時の時代背景とかをもっと良く知って、ティルや原著者の憎悪や屈辱を理解できたら、また違った読み方ができるのだろうと思う。

スポンサーリンク