ロカノンの世界(アーシュラ・K・ル・グィン/ハヤカワ文庫)

アーシュラ・ル・グインの処女作である。なぜか購入後手つかずだったのですが、つん読解消の一環として改めて手に取り、激しく後悔。なんでもっと早く読まなかったのかと…! ハランの貧しき領主ダーハルの誇り高い若妻、金髪のセムリは、愛する夫への贈り物とすべく、失われた先祖の宝、青い宝石の首飾りを取り戻す旅に出る。

その後、セムリの旅とその結末が伝説と化した頃-全世界連盟からフォーマルハウト第二惑星に派遣された民俗学調査隊は、連盟への反逆を目論みつつ惑星に潜伏する勢力の攻撃を受け、隊長であるロカノンを残して宇宙船ごと全滅する。反逆者は現地のヒューマノイド種族にも攻撃を加えており、近隣にあったテレパス種族フィーアの村も壊滅させられていた。 連盟への反逆を未然に防ぎ、また原住民を守るため、連盟に事態を知らせなければならない。しかし、調査隊の通信手段は失われており、敵の艦にある超高速通信装置を何とかして使うしかない。

ロカノンはハラン領主の世継ぎ・誇り高いモギーンと4人の従者たち、そして生き残りのフィーアと共に、翼ある大型肉食獣・風虎を駆って、敵の本拠地を目指す苦難の旅が始まった… 既に恒星間航行が可能となり、連盟が「文化の遅れた」(=テクノロジーが未発達な)惑星を教化・開発して回っているという時代背景で、舞台も実在のフォーマルハウトの第2惑星と特定されており、SFに分類される作品に違いないが、伝説に彩られた異世界、使命を帯びた旅、死の予言、願いの成就と代償など、神話的英雄譚の色彩が非常に強い、美しい作品。くっきりと鮮やかな人物描写、繊細な異世界の情景描写。ちなみに私がいちばん好きなのは、本筋とは関係のないこの一節だ。

 

「キラールと呼ばれる緑と菫色と黄色の小さな生き物は、透き通った羽根をぶんぶんいわせる虫のような生き物で、ほんとうにちっぽけな有袋類のくせにやはり怖いもの知らずで、好奇心がいっぱい、人の頭の上を飛びまわり、金色の丸い目でのぞきこみ、手だの膝だのにちょっととまっては、また気が変わったように飛び去る。」

 

なお、この世界では(少なくともこの時代は)、超光速通信や無人での超光速航行は可能になっているが、生命は超光速飛行に耐えられないため人間の恒星間航行には何年もかかる(もちろん載ってる人間にとってはウラシマ効果で殆ど時間が経過していない)、という設定になっている。恒星をまたにかける世界で戦争したり戦争準備したりするには、ちょっとのんびりし過ぎで困るのではと思ってしまいますが、この制約がこの物語を成立させると共に、何とも言えない寂寥感を醸し出してもいる。そしてラストの一行。本書のタイトルを見、頁を開いて読み始めたとき感じた微かな違和感が、静かに氷解していく…この感じ、そうそう味わえるものではない。

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