遅ればせながら、「春ゆきてレトロチカ」(スマホ版)

昨年出たスクエニの実写推理アドベンチャーゲームのスマホ版です。面白かった~!!

 

以前見かけて気になっていたけど、「実写ゲームはちょっと…」とスルーしたまま忘れていたのですが、「本所七不思議」(これも凄く面白かった!)とのコラボで思い出し、「本所七不思議と響き合う何かがあるならこれも面白いかも」と手を出してみて大正解。操作性や度々のアプリ停止(これは私の低スペックスマホに原因があるのかもしれんが)などの問題が吹き飛ぶ面白さでした。 

 

1 ストーリー

人気ミステリ作家・河々見はるかは、知人の細胞科学者四十間永司の依頼を受け、彼の実家で発見された白骨死体の謎の解明と四十間家に伝わる不老の果実「時じく」の探索のために四十間家に赴く。名目は、四十間家で100年に一度執り行われる「桜参り」の取材。しかし、はるかたちや四十間家の人々の眼前で新たな事件が発生。その上、土砂崩れによって外部からの救援の道も断たれてしまう。

はるかは事態を打開するカギを求めて、四十間家にまつわる古い物語を紐解いていく。そこに記された100年前、50年前の事件群の真相とは?そしてそれは白骨死体や今目の前でおこった事件とどんなかかわりがあるのか?そして、不老の果実は本当に存在するのか?

2 ゲームとして

ドラマのストーリーやキャラクター造形はとても魅力的で強く引き込まれました。特に100年前の物語の筆者であり主人公である四十間佳乃と彼女のパートナーとして共に時じくを追うことになる久坂如水。50年前の事件に登場する不老の歌姫・彩綾。屋敷を訪れた当初はなんだかみんな胡散臭く見えた四十間家の人々も、話が進むにつれ、違う横顔を見せてくれる。ビジュアルもキャラクターにピッタリでとてもイイ ♪ ストーリーについてはここでは触れませんが、度々泣きそうになりました。

「不老の実が実在する」という伝奇的要素はありつつも、事件解明には超自然的な要素は絡まないのでミステリとしての面白さを損なうものではないと思います。

推理はさほど難しくはなく、推理の過程の仮説づくりも最悪総当たりでもイケるので、完全に行き詰ることはないでしょう。出来上がった仮説は、ドラマパートを見て予想した通りのものから全然気づかなかったこと、更にはトンデモ仮説までさまざま。立てた仮説がストレートに正解に繋がらないところが面白い。

ただ、新たな仮説が出来上がったとき強制的に仮説の詳細説明が始まるのは、早く先を見たい、進めたいと焦ってるときには邪魔なので、説明を見るか否かを選択できるようになってると良かったかな。余裕があるときは白い「犯人の犯沢さん」みたいのがアレコレやってるムービー見るのもいいんですけどね。

あと、私のスマホの問題もあるのでしょうが、時々セーブデータが読み込めなくてアプリ停止してしまうのはちょっと困ったかな。大丈夫な日もあったのでなんかその日のコンディション的なものもあるのかもしれませんが。

 

3 ゲーム進行(詳細)

物語は6章に分かれ、基本的には章ごとに問題編、推理編、解決編に分かれています。

問題編:事件がおこり、推理の材料が揃うまでのドラマムービー

すべての手がかりはムービーの中で提示されますが、自動的に回収されるのでプレイヤー自らが手がかり獲得の操作をする必要はない。たまに選択肢が出ることもありますが、その後の分岐にはおそらく影響がない。つまり、基本的に見てるだけです。でもストーリーは面白いし俳優さんたちのビジュアルが好みだし演技もよく、マルチロールシステム(※)も利いていて飽きさせない。

※マルチロールシステムとは、1人の俳優が複数の役柄をこなすこと。この作品では、現代の登場人物の役者さんが過去の物語の登場人物を兼任している。これは、はるかが過去の物語を読む際に、登場人物に自分や知人の姿をあてはめてビジュアルイメージを作っているから、という理屈付けがちゃんとなされていて、誰が誰の生まれ変わりとかいうことではないんだけど、現代のAさんが性格は全く違うBさんの姿で登場したりするのでにやりとさせられる。

 

推理編:探偵役(例えば現代なら、はるか)の脳内推理空間に移動。

「論理の路※」のあちこちに散らばる「謎」と、問題編から自動的に回収された「手がかり」を正しく結び付けると「仮説」が自動的に提示される(仮説はあくまで仮説であって、正しいとは限らない。時おり生まれるトンデモ仮説が結構笑える)。仮説生成と同時に新たな「謎」が生まれることもある。

これを繰り返して仮説が十分に溜まると、仮説づくりを終え、パートナー(現代なら 永司)との問答で推理のポイントを整理する。

ただしここでやるのは犯人やトリックの指摘ではなく自分の考えをまとめる論点整理。手がかりを全部埋めて仮説を全部作っても、ポイント整理を全部チェックしても、それだけで正解にたどり着くことはできない。

なお、推理編では、問題編のムービーが細かく分割してあって、見返したい部分だけ再生できるようになっている。

 

※はるかのミステリの名探偵・西毬真琴の決め台詞「論理の路(みち)はつながりました」にちなむ。

 

解決編:ドラマムービーに戻り、真犯人を指摘。

探偵役が推理を滔々と推理を述べる中、プレイヤーは節目節目で出る選択肢で正しい答えを選ぶ。間違うとすぐに反論されてひじょーにばつの悪い思いをすることになる(言い直すこともできるが評価ポイントは減点される)。最悪の場合はバッドエンドということもあるようだ。

無事真相にたどり着くとエピローグがあり、次章へと続く…

 

4 というわけで…

面白いです。次作が待たれます。レトロな雰囲気のミステリや時代を越えた愛憎、宿命みたいなのが好きな方には特におススメです。

 

 

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この先はネタバレになりますので、未クリアの方は見ないでください。この作品については、当ブログに限らず絶対にネタバレ見ない方がいいです。

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5 ネタバレ感想いろいろ(クリア未了の方は見ないでください。この作品については、当ブログに限らず絶対にネタバレ見ない方がいいです。)

(1)常盤子について

温泉宿事件で灯篭流し退席と火鉢の件から赤椿は常盤子だとわかったけど、まさかあの時点で既に不老になってたとは思ってなかったし、永山殺しの動機も時じくの実を奪おうとして失敗したのかなとか思ってたので、6章での告白は衝撃でした。あんないかにも悪女っぽく出て来ておきながら、あんな男に純情を捧げていたなんて…(「私が好きで永山に振り回されてる」なんて絶対口先だけだと思ってた…ごめんね)

不老、永遠の若さは誰もが望むもので、それを実現してくれる時じくの実を巡って血みどろの争奪戦が…というのはありがちなパターンだと思いますが、レトロチカの四十間家や賢木家は不老が呪いであることを経験的に知っていたから、強制されるか如水のようにやむを得ない場合しか食べなかった。争奪戦はあくまでそれがもたらす付随的な権力を得るためのもの。不老をわが身に実現しようという幻想は、もう抱いていなかった。でも部外者で、しかも若く人生経験も浅かった常盤子は永山の甘言に乗ってしまった。

それにしても……賢木家の焼き討ち事件は時じく食べた後だったから、温泉宿事件の時点で常盤子は少なくとも10年以上不老状態で過ごしていたはず。その間永山は常盤子を構わなくなっていった…って、研究はどうしたんだよ!

永山が常盤子に時じくを与えた理由は、桐生恵=常盤子自身が思っていたより複雑だったのかもしれない。研究材料にしたい気持ちはもちろんあっただろうが、100年前のあの時代、隠然たる力を持つ旧家である。何も自分の愛人でなくとも、穏便に人柱にできる候補者は他にいくらでもいたはずだ。立派な地下牢があるに閉じ込めることもせず、着飾らせてふらふら遊ばせてるし。

ここで仮説<キラリ~ン>永山は常盤子の若さと美貌を留めたかったのではないか?

1永山は常盤子の若さと美貌が衰えるのを恐れ、時じくの実を与えた。研究を進めて不老をもたらす時じくの秘密を解明すれば、自分自身の老いも鈍化させ、二人で若さを末永く享受することもできる…と考えたのだ。

2しかし100年前の科学で不老のメカニズムを解明することができるはずもなく、時間ばかり過ぎ、自分は日一日と老いていく。失望と後ろめたさも手伝って、永山は常盤子から距離を置くようになった。しかし疎ましさと同時に罪悪感と常盤子の美貌を愛する気持ちもあったため、地下牢に閉じ込めたり、四十間家から放り出したりすることはなく、自由に行動させていた。

3常盤子に刺殺されたとき、永山は常盤子の自殺を止めた。50年後に了永の言葉を漏れ聞いた常盤子は、永山の意図は貴重なモルモットである自分を無駄に死なせたくないからに過ぎなかったと考え絶望したが、果たしてそうだろうか?

(それも身勝手な願いではあるが)常盤子に死んでほしくない、という自然な気持ちの吐露だった可能性も否定できない。

 

…というトンデモ仮説はさておき。

四十万家の男性の名には永遠の「永」の字が採られていますし、如水の本名の賢木は常緑樹、偽名の久坂も「久」を含んでいますが「常盤」もまた常緑樹、永久不変を意味する言葉。振り返ってみれば大きなヒントでした。

 

(2) 脳内に消えた如水さん×佳乃

本作品のキモとなる映像叙述トリック。過去事件の映像があくまで「はるかが作品を読んで思い描いたイメージ」であることや、如水の性別をミスリードしたのが明里本人であること、如水が若い男性であるとすると不自然な点の数々(はるかが指摘した以外の点で言えば、佳乃が如水の元に転がり込んで半年も一緒に暮らしてたとか、温泉宿での「できれば別室で」。できればって何だよ、男女の関係にあるならすんなり同室、ないなら(ないんだろうけど)絶対別室のどっちかだろう…とか。永山と対決してあっさりのされたこととか。如水さん若いのに情けなっ、って思った覚えがある)どれもヤラレタ!という感じで素晴らしい。ついでに言えば如水の男言葉も、賢木家という特殊な家系のおそらく嫡流だということを考えれば、納得できるのだ。男装の麗人的なアレですね。

この叙述トリックは最後のどんでん返しのために必要なミスリードではあるんですけど、あの日たった1日、はるかの脳内にだけ存在した如水さん×佳乃の切ない恋(はるかもそういうつもりで読んでたよね?ね?)が愛おしい。5章は途中ホントにどきどきしたし最後は泣いた。幻に過ぎないカップリングだけど、お似合いすぎるのがいけないのよ~人当たりもよくソフトな人柄の永司とは対照的に、如水さんはクールでミステリアス、でも憎まれ役を買ってでも彩綾の自殺を止める優しさもあり、世間知らずだけど聡明で真っすぐな佳乃とは本当にお似合いだった…まあ仮に如水さんが母ではなくとも、既に不老となっている以上、悲恋で終わるしかないのだけれど。

 

(3) 老いた娘

時じくはあくまで老化を止めるものであって、若返りはできない。それ故、老境に差し掛かってから時じくを食べた佳乃は若さを保ったままの母・如水の前に老いた姿をさらすことになった。

そりゃ娘の佳乃はあの時のままの如水さん(=母)と再会できて嬉しい気持ちが強かっただろうけど、母からしたら辛すぎる…もちろん会えたのはうれしいだろうけど、とっくの昔に幸せな人生を終えていると信じてた娘が、自分と同じ運命をたどっていたなんて。しかも老いた体を何十年もひきずって。これまで私が時じくの実に抱いていたイメージは「永遠の若さを保つ」だったから、この展開は新鮮であり、かつしんどかった。

あとやっぱ、運命に翻弄されながらも小説家になるという夢を持ち、未来を見つめていた佳乃と、達観と狂気がない混ぜになったような弥宵さんの姿はギャップがあり過ぎる。これは単なる若さの喪失、老いによるものではなく、時じくの不老がもたらした狂気だったのではないだろうか。

 

(4) 巡情エレジー

第3章では時じくは直接には事件に絡まず、四十間家も赤椿も脇役。彩綾の若さは努力の賜物であり、遠からず失われる運命にある。外伝的な位置づけと言えるでしょう。

しかし単なるオマケとか箸休めではない。赤椿に積極的な復讐の動機を与えたのはこのときだし、物語の本当の答えに辿り着くカギを与えたのはこの章の筆者である伊予であり、欠くことのできない役割を果たしている……というのはともかく。

彩綾さんがステキ♡ 語り手の伊予が心酔し、最後のステージを止めた如水の心を誤解して憎んだ気持ちもよくわかる。あと、憎まれ役のかな子も凄く可愛い。性格悪いんだろうな~と初見から思いつつも、可愛いな~と思いながら見てました笑。

 

(5) 名探偵・西毬真琴

最初からうさん臭さ爆発で、しかも茶碗を舐めて砒素だ、はねーだろ!(医者の家系の四十間兄弟やミステリ作家のはるかはどーして指摘しないんだよ…)というお粗末ぶりを発揮した挙句、あっさり撲殺されてしまったニセ西毬ですが、はるか描くところの西毬真琴が「論理の路はつながりました」と宣言するところは見てみたい。西毬主演の続編プリーズ。

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