聊斎志異(上・下)(蒲松齢/岩波文庫)

諸星大二郎の『諸怪志異』シリーズを読み返していて、ふと読みたくなって借りてきた(ただし『諸怪志異』は作者が聊斎志異のような体裁の中国志怪の本を作ってみたい、と考えて中国古典を基に創作した話であって、聊斎志異そのもののコミック化というわけではない。)。 500篇近い原作の中から92篇を選んだということですが、面白い。 一番多いのは、 才能も人格も優れた生員(科挙の受験資格を得る試験には合格しているが、科挙そのものにはまだ合格していない人)が、道に迷った末に辿り着いた家とか、隣に越してきた家の、素性のよくわからない美人と懇ろになり、夫婦の契りを結ぶ→妻のおかげで裕福になったり難を逃れたり、運が向いてくる→実は私は人間じゃありません&それでも構わない→引き続き夫婦として暮らす→終局(そのままハッピーエンド、夫がタブーに触れて別離、等) というパターン。異類婚姻譚の王道という感じです。お相手で圧倒的に多いのは狐。死者(これは異類婚姻譚に入るのか??)も結構多い。花や鳥など、狐以外の動物の場合もあるけどかなり稀。聊斎志異は明末~清初期を生きた作者が自分で見聞きした話や先行する小説等から題材をとってているそうなので、異類婚のイメージでは狐女房が一番メジャーだったということなんでしょうか。そういう中にあって、蜂でした、花でした、という話は新鮮さと哀切なラストが相俟って印象に残りました。 ラストといえば、物語の終局は上に書いたようにそのまま一緒に暮らすか、夫が現世に取り残されるものが多いのですが、稀に夫が妻を追いかけていって「あちら側」に行ってしまうものもあって、作者にもそういう憧れがあったのではないかと感じさせられます。作者は才能がありながら科挙にはなかなか合格できず、不遇な人生を送ったそうなので、そういう境遇が影響したのか、あるいは元々の感性によるものか。 夫婦ものの異色作?としては、恐るべき「DV嫁」話が2つも収録されています。っていうか片方は夫の妾や親はおろか、友人までターゲットになってるから既にDVではないが… そういう濃い話の一方で、筋と言うほどの筋もない、「こういう不思議なことがあった」ということを淡々とした語り口で述べているだけの話もあって、こういう話ももっと読みたいな~ というわけで、図書館で完全版を予約してみました。

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