思い違いの法則(レイ・ハーバート/インターシフト)

「じぶんの脳にだまされない20の法則」という副題がついている。

今学期選択している心理学のテキストを読んでいて、もう少し勉強してみたいなと思った「ヒューリスティック」についての本です。

ヒューリスティックとは「認知における経験則」のことで、直感的で素早い意思決定をするときに用いられる、思考の近道である…こう書くと何だかわかりづらいけど、合理的な裏付けのない直感的判断、という感じでしょうか。

カバーイラストには「HEURISTIC 20」とあるように、20種類のヒューリスティックを具体の実験結果等を挙げながら解説しています。

これがなかなか面白い。天才バッターの「ボールがグレープフルーツぐらいに見える」、バットの調子が良いと「ゴルフのカップがバケツくらいの大きさに見える」(幻視ヒューリスティック)とか、「(こうなることは)僕にはわかっていた」(あと知恵バイアス)とか、どっかで聞いたことがあるような話とか。ボールが止まって見えた人…いや神様もいたし、昔ジャンプで連載してたゴルフ漫画「ホールインワン」でもそんな描写あったよなー。

そうかと思えば「お金がなくなると太った人に惹かれる(食物は金銭であり、金銭は食物だ)」(カロリーヒューリスティック)、「第三の候補が当初の選択を変えてしまう(AB2つのうちAに似ているがAより条件の悪い候補Cが現れると、本来はCは無視してAとBの比較をすればいいのに、どうしてもCとの比較でAが素晴らしく見えてしまい、Aを選んでしまう)」(おとりヒューリスティック)など、そんなことあるのか!?というような事象も紹介されている。

なかでも怖いと思ったのは、ステレオタイプが思考に与える影響についての実験で、ステレオタイプによって陪審員の判決までが変わってしまう(情状酌量すべき事情がある被告に対して、当初は寛大な判断を示していたのに、人種情報が追加されると厳しい判断になってしまった。後で確認すると情状酌量すべき様々な事情について陪審員たちは覚えていなかった)とか、疲れていたり、バイオリズムで思考力が上がっていない時間帯だとステレオタイプな思考に陥ってしまいがちだとか、更にはステレオタイプな思考をしていると、他のことに知力を振り向けられ、そちらの効率は上がる、なんてのも…(これが一番うすら寒かった。ステレオタイプに頼って余計なことを考えない人が増えれば、二重の意味で得をする方々がいるわけだ)。

ヒューリスティックから完全に逃れることはもちろん不可能ですが、自分にも他人にもそういうものがある、ということを頭の片隅に置いておくだけでも違うはず。面白く、かつ、ためになる本でありました。

 

 

あと別な意味で面白かったのが、人類学との繋がり。

ヒューリスティックは危険に満ちた環境を生き延びるための対応力(たとえば素早く選択・判断を行う能力など)として進化の途中で備わった性質なわけですが、現代の生活様式には合わなくなってしまったものも多く、それが誤った考えにつながってしまう…と筆者は述べています。逆に考えれば、このヒューリスティックはどのようにして生まれてきたのか?と考えていけば(本書でも少し触れられてはいるけれど)、遥か昔の人類の生活や思考に近づくことができるのかもしれません。

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