『菅江真澄 図絵の旅』(石井正己編・解説/角川ソフィア文庫)

三河生まれの本草学者・紀行家である菅江真澄(1754-1829)の旅を、行く先々で描いたスケッチを中心に読み解く。半分近くは菅江真澄が旅先で描いたスケッチをカラーで収録したもので、文章は画に関連した解説が中心。菅江真澄の文章そのもの(現代語訳も含めて)は少なめで物足りない部分はあるが、図絵のタッチや彩色に素朴な味わいがあり、ラフでいながら細部の観察に優れていて素晴らしい。軒先につるされた色とりどりの七夕人形、酒を酌み交わすアイヌの男ふたり、八郎潟の雄大な眺め、牧場で気持ちよさそうに遊ぶ馬たち、巨大なかまくらに賑やかに集う十数人の子どもたち etc
また、絵の余白に解説がきっちり書き込まれていることが多く、絵の中に甲乙丙と符合が書き込まれ、余白に甲はこれこれ乙はこれこれ、とか説明されてたりするのも実学者っぽい。当然のことながら昔の変体仮名で書かれているので、半分も読めないけど…

菅江真澄は国学や本草学、和歌など幅広い教養の持主で絵心もあった人だけど、本書の図絵・解説を見ると、各地の眺望や草木、歌枕的な興味だけでなく風俗習慣、民間信仰、地名の由来(アイヌ語の影響など)、土器などの考古学、岩石などにも興味を持ち、それを地誌としてまとめようという研究者的志向も強かった人のようだ。柳田国男が民俗学の先人として評価したのも頷ける。

個人的には、両親がかつての出羽国出身だから本書に登場する自然や生活にはそうそう!あったあった!というものあるし、蝦夷地の自然やアイヌの風俗にはゴールデンカムイ、本草学者としての自然への興味には紀州の本草学者・畔田翠山の若き日を描いた歴史ファンタジー『奇のくに風土記』(木内昇/実業之日本社)、などを思い出し、懐かしさを感じる部分も多かった。

ていうか、ブリコって産卵前のメスのお腹に入ってるのしか食べたことなかったけど(大好物。子供の頃は冬に祖父母の家に行くと、大鍋一杯に茹でたのしょっちゅう出てきたのになー)、産んだ後の卵を集めて獲ってたのか!!

真澄は信濃から北日本へ向かい、さらには蝦夷の松前にも滞在し、その後再び青森を通って秋田に入り、そこで没した。30歳で三河を出てから50年近く客地にあったわけだが、常に放浪してるというよりあちこちに知己や支援者がいたりして地域ごとに拠点をつくって長期滞在していたようだ。資金はいったいどこから??と思ってしまうが、実家は裕福だったようだし支援者も多いし(行く先々に知己がいて世話になる様子は、ちょっと松尾芭蕉を思い出させる)、本草学者として藩の薬草採取を手伝ったり、地誌をまとめる仕事を引き受けて手当てを貰ったりしていたというから、金銭面での心配はそれほどなかったのかもしれない、とちょっと安心。

 

 

本書を足掛かりに、今度は全集とか、文章も読めるものに挑戦したいな。

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