サクランボの謎を追え!或いは見るだけサクランボ狩り

そろそろサクランボの季節。店のサクランボもいいけど、春先に楽しませてくれたあの桜、この桜は?と見に行ってみると…

 

※観察した内容など、事実関係には正確を期しておりますが、推測として自分の考えを書いている部分については本文にあるとおりまったくの素人考えですのでご注意ください。誤りや不十分な点等、ご指摘いただければ幸いです。

 

1 競馬場の早咲き三種~オオカンザクラ/オカメ/コヒガン~

浦和競馬場のトラックの内側は公園になっていて、3種類の早咲き桜が混ぜこぜに植えられている。オオカンザクラ(アンギョウザクラ)、オカメ、そしてコヒガンだ。

 

オオカンザクラ。花が俯いた形で咲くので実もサクランボらしく、鈴なりになっている。

同じ樹でも早いの遅いのがあって、色とりどりなのが楽しい。

 

オカメはぽちぽち

 

コヒガンはたまにしか付いてないので、いつも見つけるのに苦労する

どれも触ってみた感触はだいたい同じで、青いうちは固く、色づいてくると段々柔らかくなり、黒く熟すと皮の下に果汁が詰まったぶよっとした感じの手応えがある。

 

実の付き方は

オオカンザクラ>オカメ>コヒガン

の順。この差は何故に??と素人考えしてみると…

 

ソメイヨシノが皆クローンであるためにソメイヨシノ同士で花粉をもらっても自家不和合性*1により実ができないことはよく知られているけれど、他品種の桜であっても、公園や並木道に何本も並んでいるものは基本的に、種から育てたのではなく接ぎ木や挿し木で増やした苗木をどこかの苗木畑からまとめて仕入れたものだから、クローンであることに変わりはない。故に同一品種同士で受粉しても結実しないので他品種のサクラから花粉を貰わねばならない。しかしそのためには、他品種と同時期に咲いている必要がある。

↓の写真を見るとコヒガン(手前から2番目の逆さボウキ)は他が盛りになっているのにまだ丸坊主、完全に出遅れている。(※写真は2023年のもの)

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浦和競馬場の外周付近にはソメイヨシノもあるけどこっちは開花時期がコヒガンより遅いし距離もこれほど近くない。なのでコヒガンが花粉を貰える適当な先がなく、なかなか受粉できないのだろう。たぶん。

 

いちおうコヒガンはわかったとして、次の問題は

 

<オカメ>

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<オオカンザクラ>

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うむむ。オカメの方が花ぎっしりに見えるのに、実の量は逆転されているような…オオカンザクラは実がつきやすいのだろうか??オオカンザクラでもう1か所知っているのは、「みぬま見聞館」。そっちも見てみることにする。

 

2 オオカンザクラとあずまやの桜~みぬま見聞館~

こちらのオオカンザクラは完熟してるのも結構あるな

うひょひょ♪つやっつや

満開時はこんな感じ

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ピロティの柱の向こうにもう1本あるんだけど、オオカンザクラ同士、樹高から見ても同時期に植えたものだろうからこの2本では実はならない。となると、お相手のほとんどはあずまやの脇のこれだろう。距離的にも20mくらいしか離れていない。

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でもこっちの実は、ぽつりぽつり。

花粉のやり取りはお互いさまなはずだけど、やっぱりオオカンザクラは実がつきやすいのかな…

 

いや待てよ

オオカンザクラが開花した頃に来てみたとき、こっちはまだ全然だったのに、この再訪のときはオオカンザクラは満開なのに、もう散り始めていたっけ。

競馬場のオカメもオオカンザクラより早かったような気がするな…

 

開花期間が短ければ受粉するチャンスが減り、長ければ増える。それは当然のことだけど、もうひとつ。一つの花に雌しべは1本しかないが花粉は沢山あるから、少しでも咲いていれば幾つもの花に受粉させることは可能。受粉するチャンスは少なくても、受粉させるチャンスはそれなりにあるのだ。

オオカンザクラに実が多く相手側に少ないのは、開花期間の長さも要因のひとつとして働いているのではないだろうか。たぶん。

 

3 市民の森いろいろ

(1) 探しましたよ!

華やかピンクのミヤビザクラは

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草深い中に埋もれ、すっかり目立たなくなっていた。ない!ない!と広場を2周くらいしてしまった…

ぽつんぽつん。これだけ近くに並び立っていても、クローン同士なので。

カワヅザクラやシダレザクラなど、同時期に咲いていたサクラもあったけど、広場の向こう側なんでそれなりに距離がある。3月末ともなればいろんな花が咲いてライバルも多いですしね…それを乗り越えてやってきたのは誰なのだろうか。

(2) win-win

おおこれはかなりたくさん実がなってるな!

名札を見るとオオシマザクラであった

 

すぐ隣にはソメイヨシノ。花粉の供給源はたぶんここ

こちらも負けず劣らず。

オオシマザクラとソメイヨシノは花期もほぼ重なっているし、この2本は距離も近く間に寄り道する花もない隣同士。なのでめでたく両家ともに子宝に恵まれまして、というわけです。といってもこの実たちがどこか適地に運ばれて芽吹いて成長する可能性は恐ろしく低いのでしょうが。

(3) タイミング

この芝生広場に、エドヒガンが2本並んでいる。

やっぱりほとんど実はついてないな…

と思いきや、

あれれ?

奥側の斜めの樹はずいぶん実がなってるぞ(青いのが多いので全体写真ではよく見えないと思いますが…)

樹勢としてはこっちより手前側の方が良いと思うし、花だって前来たときは

手前側がこんな感じで ↓ だいぶ咲き進んでいるのに奥側はまだ全然だった

これは一体…?

 

ええとまず、エドヒガンは野生種ではあるけど、この2本は背格好や並び方からしておそらく同時に購入・植樹されたもの。ということは同じ原木からとったクローン同士だから互いの花粉では結実しない。すぐ近くに他のサクラ(たぶんソメイヨシノ)があり、花粉の供給源はたぶんそこ。でも、だとすると条件はほとんど変わらないはず。開花もエドヒガンより遅いし……いや。

 

手前の真っすぐの樹は花が早く、奥側の斜めのは遅かった。遅かったからその分、ソメイヨシノと重なる期間が長くなったのだ。だからソメイヨシノからの受粉で結実するものが多かった……んじゃないかな。想像ですけど。

日当たりが悪いとか花が遅いとかは不利に見えるけど、時と場合によってそれがプラスに働くこともある。個にとっては禍福は糾える縄の如し、種としてはリスク分散できてる、ってことだろうか。

 

ちなみにこちらの道路右脇の列は見沼緑道に植樹されているエドヒガン。だいぶ立派に育っているけど、どれも実はほとんどついていなかった。やはり、元は野生種でもクローン同士だと(当然のことながら)自家不和合性が働いてしまうのだ。

 

4 中身は…?

とりあえず、オオカンザクラに代表してもらいます。

 

落ちてるやつを探した

左側のように未熟なまま落ちたのは硬くて力を入れても潰れない。樹についたままの未熟な実に比べても硬いし、艶がない気がする。正常な成熟を阻害する何かが働いているのだろうか?

 

黒く熟した方は売ってるサクランボのようなしっかりした果肉がなくて、半分液体。

汚れた指先はほんのり甘かった

 

 

公園などで目にするサクランボは、ほぼ100%品種の異なる両親から生まれた種間雑種ということになる。いや厳密には雑種なのは種子であって、サクランボの実は母だけだよな。でないと佐藤錦とかも父によって*2味が変わっちゃうかもしれないもんね。でも受粉しやすさとか、うまく実が成熟するかとかについては、両親の掛け合わせの相性とかあるのかなー。

オオカンザクラ*3もミヤビザクラ*4も、カワヅザクラ*5だって種間雑種ではあるけど意図的に作り出されたものではなく、いつの間にか生まれて成長していたのが「発見」されたもの(だからこそ何と何の雑種なのか明確には特定できていない)。このサクランボたちの中にも、もしかしたら明日のスターがいないとも限らない。日の目を見る確率は、何億分の一くらいかもしれないけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:

www.terumozaidan.or.jp

*2:

www.ajfarm.com

*3:

www.hananokai.or.jp

*4:

www.hananokai.or.jp

*5:大原隆明、『サクラハンドブック』、文一総合出版、2019年電子版初版、P28

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