11文字の檻(青崎有吾/創元推理文庫)

ほとんど読んだことがなかった青崎有吾ですが、表紙裏の概要でJR福知山線脱線事故を題材にした作品、全面ガラス張りの屋敷でおきた不可能殺人、最強の姉妹を追うロードノベル…というわけわからない感じのラインナップに惹かれて購入。

いやー買ってみてよかった。

冒頭の「加速してゆく」は事故当時、隣駅で列車を待っていた新聞社のカメラマン植戸が現場に急行すると、なぜか隣駅で同じホームにいたはずの高校生もやってきており、その言動に植戸は引っ掛かりを覚えるのだが…という2005年の福知山線の脱線事故を題材としたもので、ミステリ的要素は濃くないが心に残る。

本格推理館モノ「噤ヶ森のガラス屋敷」は登場する「探偵」まわりのケッタイさを除けば(いやほんとにどーゆー世界観なんだ!)スッキリした心地よい本格。

「花澤姉妹」は踏み込んで来る者すべてを殺す最強の「花澤姉妹」の元に向かったきり消息を絶った師匠を追ってきた主人公が、師匠のそんな自殺行為の理由を探るべく、案内人とともに姉妹の足跡(人生)をたどり、ついに彼女らと対峙する…というアクション&ロードノベル(ちなみに姉妹はもちろん、主人公、師匠、案内人、主要登場人物は全員女性)。

花澤姉妹の「拒絶」はモンスター的ではあるんだけど、わかる部分もある。他者に対してぞっとするほど非人間的、でも他者の方だって姉妹を人間とは見ていない。偶像、神、悪魔、ターゲット、芸術品…現実世界でも往々にしてある話で、そういう輩が首の骨折られたりボールペンで刺し殺されたりせずに済んでいるのは、運よく相手が花澤姉妹じゃないからに過ぎない…のかもしれない。

 書き下ろしの表題作「11文字の檻」は、戦時下の日本(東土帝国と改名したらしい)、思想犯として施設に収容された男が、解放の条件となるパスワード「11文字の日本語」をわずかな手掛かりをもとに、同室や隣室の住人と協力したり、呆れられたり反発されたりしつつ探っていく…というもの。パズルゲーム小説兼ディストピア小説という感じでしょうか。思想犯としての拘束から解放されようというわけなので、パスワード候補として囚人たちがひねり出す標語は太平洋戦争時のプロパガンダのごとき勇ましさ、主人公が捕まって収容されたときの仲間(同業者)の反応も昨今のあれこれを考えると、皮肉が効いててよい(よくない)。今、出版する短編集の表題作として相応しいと思います。

 あと驚いたのが「前髪は空を向いている」「クレープまでは終わらせない」「花澤姉妹」と、濃淡はあれど百合小説が8編中3編を占めていたこと。しかもなかなかにわたし好みの距離感である…ちなみに「前髪は…」は漫画「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」の二次創作だそうで、こちらも読んでみたくなりました。

 

 

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