鈴の音の謎など~『鎌倉殿の13人』第25話「天が望んだ男」より

6月26日放映の第25話でついに、頼朝が落馬するという有名な場面を迎えました。史実では落馬から死去まで半月ほどあったということですが、その間に意識を取り戻したという話は聞かないので、実質これで退場ということになるのでしょう。

戦闘はもちろん重要な会議などもなく、ラストさえなければ絵に描いたような「日常回」。死の恐怖に怯え、何とか回避しようとドタバタしていた頼朝が、北条の縁戚が主宰する相模川供養にいやいや出かけて行って、すったもんだの末に心の平静を取り戻し、安らかな気持ちで御所に帰還する途中で意識を失って落馬ーーという筋立ての中で、様々な人が頼朝を訪れ、また頼朝の方から訪れて、それとは知らずに最後の言葉を交わすことになります。

しょうもないけど憎めない、本作の頼朝らしい最期だったと思います。ギャグパートでもいろいろ見どころがあって面白かったのですが、気になったことが2つ。

(ネタバレですので未見の方がいらしたらご注意ください)

 

 

1 死因、そして小四郎の憂い

頼朝の死因は、身体の痺れなどは前半の御所にいるうちからあったし、最後の呂律が回らないところとかを見ても、脳梗塞じゃないかと思います。

小四郎の態度にちょっと違和感というか翳りがあったので、毒殺説を取る人がいるのもわかるけど(ネット見てると結構そういう意見を見かける)、今頼朝に死なれたら困るのは鎌倉殿の姻戚という立場を比企に取って代わられる北条なので、小四郎や時政には動機がない。まして、頼朝は比企に不信を抱いていて源氏の血筋の娘を頼家の正室にという話が持ち上がったところだし。後見の三浦が力を持ちすぎるのも困るけど、当面のライバルは比企だし、三浦と北条は個人的な友諠もあるから比企よりは後々の交渉もしやすい。

餅で死にかけた場面を見ても、(時にはやってらんねーと思うことはあっても)頼朝との関係には満足してたし情もあったと思うんですよね。

「水もってきてくれ」と言われたとき、政子を制して水汲みにいったことも毒殺説で取りざたされてましたが、小四郎が行くのはむしろ自然。政子は坂東の小豪族の娘だから気軽になんでも自分でやっちゃうけど、御台所様ですから…実弟とはいえ小四郎がぼんやりしてたらいかんでしょう。それと、この直後の政子と頼朝の会話が示すように、政子をカヤの外に置いたまま頼家の正室の話を決めてしまったことのケジメをつける機会を持たせるため、夫婦二人きりにした、ってのもあると思います。

 じゃあ小四郎の態度に翳りがあったのは何故なのか?というと、頼朝がもう長くないことを小四郎が勘付いていたからじゃないかと私は思ってます。

年齢的にももう50過ぎ、様子がおかしいことには気づいていただろうし、そうかと思うと急に悟ったようなことを言い出す。もしかして…という不安と、死が間近に迫った相手に対してずかずかと踏み込んでいけないような躊躇いを感じてもおかしくはない(政子もしんみりしないで、と言ったりしてるところを見ると無意識には気づいてはいるけど心の中でさえ認められずに不安を押し殺している感じかな…)。

ラスト近くで義時だけ皆と離れて手を合わせていたのがよくわからなかったのですが、もしかすると頼朝の無事を祈っていたのかも?とここまで書いてきてふと思いました。

 

 

2 鈴の音

ラスト直前、頼朝が落馬すると場面が切り替わり、同時点の他の人物たちのショットが入るのですが、響きわたる鈴の音が聞こえたらしい人と、聞こえてないらしい人がいました。

 

聞こえたのは登場順に、

政子

畠山重忠

頼家

和田義盛

三浦義村

大江広元

梶原景時

比企能員 

りく

 

よくわからない人選。頼朝の死によって受ける影響もバラバラだし、これからおこる権力闘争の中で死んじゃう人もいるし生き残る人もいます。野心があって鎌倉を牛耳ろうとする…っぽい人も多いけど畠山重忠とか和田義盛はそういう感じには見えない。小四郎や全成がいないところを見ると、頼朝との関係の深さ、というのでもないようです。

 

うーん…わからん。対比するために、聞こえなかった人を並べてみます。

小四郎

実衣

比奈

全成

頼時(北条泰時)

時政?

時連(北条時房)?

 

法要終了後に北条一門が歓談している場面の人々です。時政と時連は私のTVだとちょっと不鮮明ですが、当然この場にいるはずなので、まあたぶん。

政子と重忠もこの場にいるのですが、鈴の音に気づくのは彼らだけ。小四郎は外で小さなお堂みたいなのに手を合わせています。

 

 

こうして見比べてみると、鈴の音が聞こえてないのは、「北条家の人々」と言っていいのではないでしょうか。

重忠は北条の婿とはいえ畠山の当主だし、政子も北条の出身で心はほとんど北条だけど、一義的には鎌倉殿の御台所。北条だけ、という立場ではない。逆にりくは当主時政の妻ではあるけど北条の人になり切ることはなく、北条を自分の価値観に沿わせようとしている(比企出身の比奈が泰時に「すっかり北条の人ですね」とか言われているのと対照的)。全成は頼朝の弟で源氏の血筋なんだけど、りくのように北条を自分に合わせようとするんじゃなく、すっかり北条に馴染んでしまっています。

じゃあなぜそれが鈴の音が聞こえるか否かにかかわってくるのか。というのがまたよくわからないわけですが、ひとつ考えられるのは、

 

北条がこれから続く政争の嵐の中心になっていくからこそ、北条の中の人には聞こえなかったのではないか?

 

ということ。

歴史を見れば最終的には北条が武家の世の指導者になるわけで、鎌倉殿一家も御家人たちも、その過程に対抗すべく自ら飛び込み、あるいはいやおうなしに巻き込まれていく存在です。

頼朝が鈴の音を聞いたのは天命を受けたときではなく、死亡フラグに抵触したとき、頼朝から天命が移ろうとするときのこと。

もしかすると天は、頼朝の次は北条を選び、それ以外の者たちに語ることなく合図した…ということなのかもしれません。その中心というのはもちろん主人公・小四郎義時で、彼もまた、「天が望んだ男」であったということになるのでしょうか。

 

うーんわからない。しかし、面白い…いっそう殺伐としてくるのは辛いけど、after頼朝が楽しみです。

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