Lord Edgington Investigates...(Benedict Brown)【2022.1.12追記】

※4巻まで読んだのでちょっと追記しました。末尾にちょっと4巻のネタバレあり。

kindle unlimited 始めたのであまり重くないものを…と思って物色しているうちに見つけたシリーズ。4巻まで読了。いやー面白いなこれ。今年の春には5巻が出る予定らしくたのしみ。

 

1920年代のイギリスを舞台に、スコットランドヤードの伝説的(元)名警視であり、富裕な貴族でもある老エジントン卿が、語り手である孫のクリストファー少年を助手として、第二の(第三か?)の人生を楽しみつつ、降りかかる難事件に挑む……!というもの。

 

エジントン卿は老貴族らしい傲岸さ、警察官らしく正義と公正を求める苛烈さを持ちながら、身分の低い者への敬意や犯罪者への理解も見せる複雑な人物。更にはお茶目なところもあって、訓練だーと言ってヒントをちらつかせたりお預けにしたり、クリストファーが口走る推論と言う名の妄言にダメ出しするときの得意っぷりとかには当人ならずともちょっとヒドいよ…と言いたくなる。

ワトソン役のクリストファーくんは、卿の娘ヴァイオレットの次男。16歳という妙齢ながら丸ぽちゃ体型で運動はまるでダメ、学校ではいじめられっ子の標的にされている(後に改善)。本好きでディケンズの大ファンだけど理数系など勉強は苦手、バードウォッチングも好きだけど同定とかはあやふやな感じで、オタクとしてもおそらくレベルは高くない。お爺ちゃんから助手に指名され、張り切って空回りして大恥かいたりエジントン卿の思考についていけなくてぽかーんとなったり。異性、家族、友人との関係などを見ても子供っぽくて12~3歳ぐらいに見えてしまう。まあそれでもちょっとずつ成長していくのですが…

 

という、ムカつくジジイとイラっとするお子ちゃまコンビなのでドタバタのユーモアミステリになるのかなと思いきや、(笑える部分はもちろん多いけど)結構陰惨だったり、胸糞悪い部分も結構あって、それは時代背景というか社会の矛盾とも関係しているように思います。

エジントン卿が警察官の道を選んだ理由は第3作でようやく明らかになるのですが、それ以外にも彼の前半生は謎に包まれているので、シリーズが展開していく中で徐々にそれが明かされ、(おそらくは胸糞悪い社会に流されまいとした)エジントン卿の全体像が見えてくる…のではないかとひそかに期待。

⇒やはりというか、4巻で重大な事実が明らかになった。

ミステリとしては、論理的に推理する前に人物像でほぼ犯人がわかってしまうという残念な点はありますが、それを補って余りある、ぐいぐい引き込まれる面白さです。あと、エジントン卿の忠実な愛犬、ゴールデンリトリバーのデリラも可愛いのだ。

 

以下、既読の長編4冊について簡単に。

1 Murder at the Spring Ball

最愛の妻の死後10年もの間、世捨て人のような生活をしていた老エジントン卿は突如として、生きているうちにやりたいことをやるんじゃと宣言し、手始めに大舞踏会を復活させると宣言する。パーティの準備係に指名された孫のクリストファーは、苦労しながらも意外な手並みで準備万端整え、パーティ当日を迎える。しかしその席上で親族の一人が毒殺され、現場にはエジントン卿のかつての部下で、貴族出身の卿に敵意を示すブラント警部が乗り込んでくる。身内をなくした卿の傷口に塩を摺り込むような対応をするブラントに怒りを覚えつつも、エジントン卿は悲しみを抑え、事件の解明に乗り出すのだが…

上流階級のゴージャスなあれこれや、軽妙なユーモアの部分もさることながら、危機に陥り失意の底にある父母や祖父に対するクリストファーの家族愛がちょっとじんと来る。事件の真相の更に奥に見えたものは本当に残酷で、読後に重く残る。

 

2 A Body at a Boarding School

クリストファーが寄宿するボーディングスクールは、父も祖父も在籍していた歴史ある名門校。夏休みを翌日に控えた家族招待日、仕事で来れない父さんの代わりに、母さんと一緒に来校したエジントン卿。三者面談や生徒たちによる体育競技、家族は飲酒OKのピクニック…とてんやわんやの騒ぎの中、人けのない校舎で事件が…!クリストファーにヴァイオレット母さんまで加えたトリオが名門校の看板の陰に隠された謎と事件に挑む。

全寮制の寄宿舎が舞台だが、生徒同士の友情とか愛情とかの関係性は(ゼロではないが)期待しない方がいい。

 

 

3 Death on a Summer's Day

夏休み。爺様は孫とコックら使用人の一団を引き連れてイングランドを北上し、湖水地方にある旧友の邸に、昔の仲間たちを呼び集める。久しぶりに会った友人たちはある者は友好的、ある者は敵意を露わにするなど、その反応はさまざま。一筋縄ではいかない彼らを相手に、エジントン卿は57年前の事件の真相を追求しようとするのだがその矢先、新たな事件がおこる。昔の事件、昔の仲間たちに強い拘りを持つエジントン卿は、いつもの冷静さを失っているようなのだが…

夏休み、イングランドの田舎の旅、という舞台背景もわくわくポイント。ついでに言うと、クリストファー少年にもついに春が…!(夏だけど)

 

 

4 The Mystery of Mistletoe Hall

クリスマス休暇。かつての上司マウントファルコン卿の突然の招待を受けたエジントン卿に連れられて、母や兄、そして諸事万能なお抱え運転手トッドら使用人一団と共に雪深い「ヤドリギ邸」を訪れたクリストファー。

しかしクリスマスの準備がほぼ整った屋敷はもぬけの殻。これはマウントファルコン卿得意のおふざけなのか?しかしやがてマウントファルコン卿の射殺死体が発見され、招待状も捏造だったことが判明する。どやどやと現れた他の招待客ーー同じくマウントファルコン卿の部下だったブラント、犯罪者としてエジントン卿と対峙した過去を持つホレイショ・アデレードとその息子でクリストファーの友人でもあるマーマデュークのほか、クリケットのスター選手、短期で家庭教師として雇われたという(ヤドリギ邸には子どもはいないのだが)娘、若き女性レーサー、道化師、歌手…とさまざまーー彼らは何のために、誰によって集められたのか?そしてマウントファルコン卿を殺したのは誰か?

そして、大雪で外部との連絡が途絶えた邸で、更なる殺人が……

<以下ネタバレ>

 

ぐいぐい引き込まれる面白さ、胸糞悪さ、推理するまでもなく犯人がわかってしまう…この辺は相変わらず。冒頭に叙述トリックもどきのミスリードがあるのは新機軸か。犯人に関しては、罠を張るのに必要な情報を得られるのはマウントファルコン自身かブラントしかいないので、ブラントが2人めの被害者にならなかった時点でもう…ね。

ブラントは1巻時点から張られていた伏線がきちんと回収された、ということなんだろうけど、救われないなあ…胸糞悪さはむしろパワーアップしてる感じだな。ラストでのアデレード父子の関係改善は爽やかだったけど持って行き方によっては和解というセンもあっただろうからちょっと残念な気もする。ともあれ、これでシリーズとしては節目を迎えたことになるのかな。少年時代、警官時代とエジントン卿の過去が明らかになったし。

春には5巻も出るそうだけど、エジントン卿の復活(=終活)はどこへ向かうのだろうか。

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