六人の嘘つきな大学生(浅倉秋成/角川書店)

SNSサービス「スピラ」を基盤にした急成長によって、一躍若者の憧れの的となった新興IT企業スピラリンクス。その初めての新卒募集には5千人超の応募者が押し寄せたが、最終選考まで残ったのは六人。

 

語り手役の波多野祥吾(立教大)、ヒロインの嶌衣織(早稲田大)、容姿端麗で非の打ちどころのないリーダータイプの九賀蒼太(慶應大)、典型的な体育会系と見えてその実場を和ませる機転や愛嬌のある袴田亮(明治大)、モデルのような美人で語学力に自信ありという矢代つばさ(お茶の水女子大)、見るからに気難しい秀才タイプの森久保公彦(一橋大)、である。よくある東都大学とか城南大学とかじゃなく、実在の大学名なんである…

 

最終選考は1か月後の「グループディスカッション」と指定されるのだが、そのディスカッションは互いに知らない者同士の議論ではなく、お互いを理解し合って長所を生かし短所を補う、チームとしての議論を求めるから、1カ月後までにチームを作り上げてきてくれ、という注文がつく。

ディスカッションの出来がよければ6人全員に内定を出す、と言われた彼らは全員採用を目指して互いを知り、ディスカッションのテーマを予測(スピラリンクスが実際に抱えているのと類似した案件、とヒントが出されている)し対策を立てるため、定期的に打ち合わせを行い、飲み会まで開いたりして親密さを増し、頼れる仲間としてお互いを認め合うようになった。はずだったが……

突如として最終選考のテーマが変更され、「六人のうち一人だけ内定を出すので、ディスカッションで誰にするか決定してくれ」という指示が届き、仲間たちは一転してゼロサムゲームの敵同士に変わる。

複雑な思いを抱えながら最終選考のために集まった彼らは、誰を内定者とすべきかをテーマにディスカッションを始める。波多野の出したアイディアによって、議論は意外にスムースに進むかに見えたが、途中で六人それぞれについての告発文が入った封筒が発見され、メンバーの知られざる裏の顔が次々と晒されていく。

この告発は誰が仕組んだのか?理解していたと思っていた仲間たちのあれこれは、すべて嘘、うわべだけの偽りだったのか?そして、まだ開封されていない封筒の中身が告発する、彼女の裏の顔とは…?

 

 8年後、「犯人」と目された人物の死をきっかけに、関わった人々の記憶が掘り起こされ、事件に別の角度から光が当てられる。そして辿り着いた事件の真の姿は…

 

 

 

序盤、希望に燃えた6人が和気藹々とやっている辺りは甘酸っぱくてちょっと恥ずかしかったけど、最終選考が始まってからはやめられなくなり、一気に読んでしまいました。

読後感を述べることすらネタバレになりかねないのが困りものですが、細かい伏線やちょっとしたひっかかりが見事に回収されていく快感が素晴らしい。青春小説としても、話が進むにつれ、序盤のお約束な展開を超え、どうにもならない自分と他者、自分と社会の葛藤を強く感じさせ、読み応えのある作品となっています。若さゆえの未熟と狂気。もっとも、この選考方法を採用し、ディスカッションがああなっちゃっても止めなかった会社側も負けず劣らず未熟であり、狂ってたと思いますけどね。

 

 

作者は「伏線の狙撃手」と呼ばれているらしい(帯に書いてあった)。他の作品も読んでみたい。

 

 

 

 

 

 

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